若手ヒラ社員は部長や課長に頭が上がらない……が相場だが、昨今は事情が違うようだ。ジャーナリストの溝上憲文さんは「Zoomやチャットなどの細かな操作スキルが低いデジタル音痴の管理職は少なくありません。堂々と部下に方法を聞けばいいのですが、いつも横柄な態度をとっているせいか恥ずかしくてできないようです」という――。
うなだれている男性
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異動願いを出してくる管理職が増えているが行き場なし

コロナ禍の職場で急速に浸透したのか、リモートワークやオンライン会議などICT(情報通信技術)やデジタル技術を活用した仕事の変化だ。

その中でかつてのスキルが陳腐化する現象も起きている。たとえば顧客を何度も訪問し、濃密な関係で築き上げる営業も、web会議ツールを駆使したインサイドセールスに取って代わられつつある。

全員がそろって出社しなくなり、部下とのコミュニケーションが減少し、仕事の指示や進捗状況の確認、さらには部下の育成に頭を抱える管理職も少なくない。中には今の職場から逃げ出したいという中高年管理職も増えている。上場企業の建設関連会社の人事部長は「最近、異動願いを出してくる管理職が増えている」と語る。

「当社には上司を通さずに人事部に異動希望を出せる年齢制限なしの自己申告制度があります。以前は別の部署にチャレンジしたいという40歳以下の若い社員が多かった。しかしコロナ禍以降は、中高年の社員や課長、中には部長もいます。ヒアリングすると、50歳を過ぎて、自分の強みを活かした得意な仕事と与えられたミッションが合わなくなってきたと言う人、あるいは自分のスキルではお客さんや取引先の要求に応えるのが難しくなったと言う人、部下との関係がうまくいかず、どう指導すればいいのか悩んでいる人もいます」

ラーニングエージェンシーが実施した「管理職意識調査」(2022年3月31日)によると、管理職経験6年~10年目のベテランの悩みで最も多かったのは「部下の育成」が約50%を占め、次いで「チーム・部門の運営」が30%を超えている。

管理職が部署異動まで願い出るのは深刻な事態だが、実は共通して最も多いのが、ITやデジタルスキルに追いついていけないというものだ。人事部長は言う。

「ZoomやTeamsでチャットを使った会議や商談が増えていますが、これについていけない人が多い。若い人は普通に資料などを画面共有でサクサクやり、チャットで自分の意見を入れたりしますが、年輩者は画面共有もできなければチャットにも気づかないでモタモタしてしまう。あるいはパスワードを付けて資料を送れない、送ってきても開けないといった“デジタル音痴”が職種や部門に関係なく一定数出てきています」

こうした人たちが異動希望を出しても、今ではITスキルを必要としない部署があるわけではなく、行き場所がないのが現実だ。

「ヒアリングした年輩の課長から『どこかよい部署はありませんかね』と聞かれましたが、ITスキルを必要としない仕事はほとんど外注に出しているから難しいですね、と答えるしかありません。わからなかったら部下に聞けばよいと思うのですが、たぶん、いつも態度が横柄なので部下との人間関係ができていないから恥ずかしくて聞けないのでしょう。本音では『あなたみたいな昭和のニオイをぷんぷん出しているようではどこにも仕事はないよ』と言ってやりたいのですが……」