さらに厄介なのは、相続人に財産をもらっていた意識すらなかったパターンでしょうか。

たとえば専業主婦のヘソクリがそうです。扶養義務者贈与にあたります。

では、夫からもらっていた生活費を妻が切り詰めてコツコツ貯めていたらどうなるのか。扶養義務者の間で行われる生活費に充てるための贈与については、贈与税は非課税です。しかし、収入のない専業主婦名義の預金として残った分は通常必要な生活費とみなされず、しかも贈与の証明が難しいため、税務署は名義預金として扱うのです。

専業主婦は家事労働しているのだからそもそも2人で協力して稼いだお金を分配しているだけだと言いたくなる気持ちはわかります。実は国も専業主婦の働きをゼロと評価しているわけではありません。相続税には「配偶者の税額軽減」措置があり、法定相続分(配偶者と子なら2分の1)あるいは1億6000万円のいずれか大きい金額までは、配偶者が一緒に稼いだお金と考えて相続税を非課税にしています。

ただし、この措置はあくまで税額を軽減するものであり、相続財産としてカウントしないという意味ではありません。ヘソクリが名義預金になったことで相続財産が基礎控除を超え、配偶者以外の相続人に相続税が生じることも考えられます。

相続税は、テキストを使用して写真に表示されます
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本人が忘れていたお金まで調べあげる

過去に私が担当した中では、家族経営の会社で経理を担当していた母が、給与を上回る額を生活費として子たちに振り込んでいたため、子たちの預金が名義預金とされた例もあります。家族間で生活費をやりとりしているだけのつもりでも、名義預金になることがあるので要注意です。

親子間では次のようなケースもありました。無収入の息子が若いころに消費者金融でつくった借金を、親が肩代わりして完済。原資は親の稼ぎなので、名義預金とされたのです。

これが直近の話なら私も気づいたかもしれません。依頼人から相談を受けたときは、ご家族のものを含めて過去10年分の通帳を見せてもらい、抜けや漏れを指摘されないように事前に調べるからです(実はそれもご家族の機嫌を損ねて、ままならないことが多いのですが……)。

しかし、このケースで親が借金を肩代わりしたのは20年前の話。本人たちも忘れていたくらいなので税理士もお手上げです。

逆に言うと、本人たちが忘れていたお金の動きまで調べあげる税務署の調査能力は、さすが公権力と感心せざるをえません。ちなみにこの調査能力が法定相続人にプラスになることもあります。相続税が100%を超えることはありません。すでに相続税がかかることがわかっている場合、遺族が知らなかった預金を税務署が発掘してくれれば、たとえ税額が増えても、それ以上に受け取る財産が増えるのでトータルで得をします。むしろ積極的に協力したいところです。