権限を与えれば挑戦が増える

なぜ、歴史的な偉業は達成されたのか? エディーさんは、生産性を最大化させるために必要なのは、適切なビジョンの策定、プランを立てるだけではなく、プロジェクトの進捗状況、個人の状態を確認する「評価システム」にあると話す。

「コーチングで大切なのは、適切なエバリュエーション、評価です。プランニングと同様、コーチにとって重要なのが人事考課、進捗状況の評価です。人事については、スタッフはもちろん、コーチである自分自身に関してもどれだけ進歩しているかを評価し続けなければなりません」

組織の成長を促すためには、信頼できる評価システムが大切だとエディーさんは強調する。

「ターゲットに向かって、月単位、週単位、そして毎日の評価があるはずです。一日を漫然と過ごしては、生産性が上がるはずもありません。私は日本でいろいろな企業の方と話をしますが、びっくりしてしまうのは、『いつも適切な評価をしています』と話すのに、その頻度が年2回だったりするんですよ。とんでもない、と思ってしまいますね。評価は常に、毎日やらなければいけません」

日本で生産性が低い組織が多い理由は、ほかにもあるとエディーさんは指摘する。そのひとつが長時間労働だという。

「日本のリーダーは長時間労働を強いることで、メンバーに対して相対的優位性を示そうとします。これは高校の部活動からビジネスにいたるまで、あらゆるエリアで散見されます。長時間労働は集中力を削ぎ、生産性を低下させます。それよりも、緊張感をもって仕事をする環境をつくるのがリーダーの務めです」

日本人の成長を妨げているのは、失敗することを恐れる気持ちです
「日本人の成長を妨げているのは、失敗することを恐れる気持ちです」

そしてもうひとつ、生産性向上の足を引っ張っているのが日本人の「安全志向」だという。仕事のうえではミスをしないことが優先され、イノベーティブなことに挑戦する士気を挫いているのだという。

「これは評価システムとも関わってきますが、日本人は100%正しく実行することに重きを置きすぎています。システムがそうなっているからです。もっと、冒険心を評価すべきではないでしょうか。ただ、安全性を優先させるのは、何も日本人だけの特徴ではありません。イングランド人も『グループで一緒にやっていきましょう』とか、『礼儀正しく』といった価値を優先させます。私が育ったオーストラリアはよりアグレッシブ。幼いときから、そうした発想の教育を受けてきたからです。教育は重要ですね。『出る杭は打たれる』という日本の諺は、今も生きていて、生産性の向上を妨げている気がします」

日本人のこうしたメンタリティは、保守的な選択につながる可能性が高い。

「『セカンド・エフォート』という言葉があります。ラグビーでは、相手にタックルされてから『あと2メートル、いや3メートル進もう』とあがくことを指します。日本人はこうした意欲が低いのです。これは自分の役割を果たせばいいという意識の裏返しでしょう。実際、頑張ったことで孤立し、ボールを奪われてしまうことも多々あるのですが、リーダーは前に進もうという意欲を挫いてはいけない。日本人の成長の妨げになっているのは、失敗することを恐れる気持ちです」