欧州各国での異常なまでのガス価格高騰が連日報道されている。ロイターによると、欧州ガス価格の指標となるオランダTTFは過去12カ月で550%上昇。イギリスでは10月から家庭の電気・ガス料金が80%引き上げられる。EU加盟国の中で最も痛手を被っているのはイタリアとドイツの家庭であるという。
ドイツ家庭の7月のエネルギー費用は昨年に比べ2倍以上に膨らんだ。オラフ・ショルツ首相は1日、対策は十分であり、ロシアのガス供給が停止してもなんとか冬を越せるだろうと述べたが、市民の不安はなかなか消えない。
真冬でも暖房は19度まで
来る冬に備え、ドイツでも9月から新たな対策が導入された。例えば、今週から向こう6カ月、公共施設の暖房は最高19度までになる。まだまだ残暑の続く9月は問題ないだろうが、真冬には厳しい温度設定だ。これまではオフィスの奨励「最低」気温が20度だった。さらに、ホールなどの広い空間や技術室の暖房は極力避けるよう求められる。
小売店のショーウィンドウは夜10時から翌朝6時まで消灯される。日中もドアを閉めなければならなくなるため、小売業界団体は早速「ドアは閉まっていますが営業中です」と書かれたポスターを用意し、小売店が利用できるようにした(これまでは営業中の店はドアを開けたままにしているところが多かった)。
モニュメントなどのライトアップ中止も検討されている。地下道の電気広告などは夜間も点灯されるようだが、それでも街中が暗くなることによる治安の悪化を懸念する声も上がっている。個人に適応される新規則もある。例えば、温水プールなどの禁止だ。またドイツでは賃貸契約に光熱費が含まれる場合もあり、家主には契約の見直しの必要も出てくる。
ドイツでは今年6月から9月の3カ月間、全国どこでもローカル線なら1カ月9ユーロで乗り放題というチケットが売り出された。ガソリン代の高騰を受け、市民が公共の交通機関を利用しやすくするための試みだった。3カ月で5千2万枚の売り上げがあり、市民からは継続を希望する声も上がっている(ただし、環境保護の面ではあまり効果が見られなかったようだ)。そのほか、9月には一律燃料補助手当が出たり、育児手当が一時的に増えたりと、わずかながらも何らかのサポートはある。
原発議論が再燃
今年末に操業停止が予定されている3つの原子力発電所の続行を望む声も増えている。原子力法により12月31日付で操業停止となっているが、ドイツ人の約78%が継続を望んでいるとも言われ、キリスト教社会同盟(CSU)党首でバイエルン州首相のマルクス・ゼーダーやドイツキリスト教民主同盟(CDU)党首フリードリヒ・メルツらもこれを支持している。
一方、現首相のオラフ・ショルツ(ドイツ社会民主党SPD)や緑の党のロバート・ハベック経済相などは現状案を固持するつもりだ。連邦核廃棄物管理安全局(BASE)のウォルフラム・ケーニッヒ所長によると、3原発による現在の電力供給量は全体のわずか6%でほとんど貢献しておらず、天然ガスの代替品にはならないという。