「日本企業の部長の年収は、タイよりも低い」。そんな刺激的な文句の並んだレポートが、今年5月、経済産業省のサイトに掲示された。省内に設置された「未来人材会議」がまとめたもので、結語では「旧来の日本型雇用システムからの転換」を求めている。壮大なレポートの狙いはどこにあるのか。取りまとめた経済産業政策局長の平井裕秀氏に聞いた――。
経済産業政策局長の平井裕秀氏
撮影=プレジデントオンライン編集部
経済産業政策局長の平井裕秀氏

いまの人材投資のありかたでは日本の未来はない

――なぜ「未来人材ビジョン」を発表したのですか。

いま、世界ではデジタル化や脱炭素化などが急速に進んでいます。この流れは今後ますます加速し、2030年、2050年には産業構造や労働需要が根本から変わるでしょう。しかし、日本の教育界・産業界を振り返ると、こうした未来を見据えて変化に対応しうる人材を育成しているところは決して多くありません。

【図表1】日本の人材の競争力は下がっている
日本の人材競争力ランキングは米国14位、中国36位を下回る39位(出所=「未来人材ビジョン」P41)

特に産業界では、最近はDX化を進める企業が増えていますが、その割にDX化後の世界で求められる人材の育成は進んでいません。さらに、日本はこれから生産年齢人口がどんどん減少するのに、海外の高度人材から選ばれない国になりつつあります。この状況に、私たちは「いま人材投資のありかたを変えなければ日本の未来はない」と危機感を抱きました。

そこで、今後の人材政策を検討する「未来人材会議」を省内に設置し、未来を担う人材の育成のありかたを提示しようと、調査や議論を重ねました。その結果をまとめたものが「未来人材ビジョン」です。ここでは、2030年、2050年の労働需要を推計するとともに、これからの人材育成の方向性や具体策を示しました。

日本企業の従業員エンゲージメントは世界最低水準

――たくさんのデータが紹介されていますが、平井さんが最も危機感を抱いたデータはどれでしょうか。

一番ショックだったのは日本企業の従業員エンゲージメントは世界でも最低の水準だというデータです。ギャラップ社の2021年の調査によると、従業員エンゲージメント(個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係がある従業員数の割合)の世界平均は20%ですが、日本はわずか5%でした。米国/カナダが34%、中国が17%、韓国が12%で、日本の低さは突出しています。

【図表2】日本企業の従業員エンゲージメントは、世界全体でみて最低水準にある
日本企業の従業員エンゲージメントは世界平均の4分の1(出所=「未来人材ビジョン」P33)