日本の周辺国の情勢変化

私はフィリピンにもアドバイスをしようと思ったが、国家戦略の実現には最低でも10年はかかる。ところが、フィリピンは独裁者マルコス時代への反省から、大統領は1期6年という任期制限が設けられている。

私はラモス氏に法改正を提案した。ラモス氏は私の案が気に入って動き出したが、カトリック教会に反対されてしまった。フィリピンはカトリック教会の影響が大きいから聞かざるをえず、実現に至らなかった。

今回のボンボン・マルコス氏は、選挙活動で「おやじの政治は前半と後半に分けて考えてくれ」と訴えていた。父は、後半は汚職まみれの独裁者になったが、前半はインフラ整備に力を尽くすなど国のために働いたというのだ。フィリピンが最も栄えた時代であり、自分は前半の父親を踏襲するから、あの時代を取り戻そう、と訴えていた。後半の腐敗については「女帝」と呼ばれた母親のイメルダ夫人になすりつけたところがある。

父親の前半を踏襲するといっても、ボンボン・マルコス氏にまともな政治ができるようには見えない。彼は州知事、下院議員、上院議員を務めてきたから、政治経験がゼロではない。だが、彼には危険な点がいくつかある。たとえば中国との親密関係だ。

北イロコス州知事の時代は、地元で収穫したマンゴーを中国向けに輸出して恩恵を受けた。同州に中国領事館も誘致しているほど、親中国だ。

今回も立候補後に在フィリピン中国大使館を訪れ、大使と親しく懇談したと報じられた。当選後すぐに、習近平国家主席と両国の関係について電話で話し合ったという報道もある。

一方で、日本の話を出しても「日本ってどこにあったっけ?」という具合だろう。かつて日本とフィリピンは結びつきが強かった。丸紅などの総合商社がインフラ整備などでフィリピンに進出していた。日本はフィリピンとの関係を深めたいところだが、外交では中国のほうを向いているマルコス家とドゥテルテ家が相手では、取り付く島はなさそうだ。

オーストラリアやフィリピンを含め、日本の周辺国の情勢変化に対しては、過去数十年のいろいろな出来事を総合的に勘案し、主要人材との親交を通じて人的側面から政策立案できるように持っていかなければならない。本来この仕事は外務省がやるのだろうが、アメリカと中国を除いては、専門家が育つ仕掛けにはなっていない。アジア太平洋諸国に関しては一刻も早く、民間のボランティアグループを立ち上げ、国別の対話能力を拡充していく方策を検討すべきだと思う。

(構成=伊田欣司 写真=ロイター/アフロ)
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