近年、さまざまな場面で取り組みが求められているデジタルトランスフォーメーション(DX)だが、人手不足や長時間労働など働き方の問題を解決すると期待されている。一方で、中小規模の企業では「何から手を付けていいのかわからない」という戸惑いの声も聞こえてくる。特に、工期に仕事が左右される建設業界では、働き方改革に取り組むことは容易ではないという。
ところが、創業86年を迎える電気設備工事会社入交電設(山口県山口市)は、「サイボウズ Office」を導入して働き方改革を進め、業務の効率化とともに、従業員が生き生きと働ける環境づくりに成功している。改革を主導する同社取締役の隅つばさ氏の取り組みを追った。

書類の管理が属人化していることに愕然!

隅氏は11年勤めた保険会社を辞め、2018年5月に父親が社長を務める入交電設に入社した。同社は隅氏の曽祖父が1936年に山口市で始めた電気設備工事会社だ。従業員数は32人で、創業86年を迎えた現在も県内の公共建築物の照明工事やトンネル・信号機などの電気工事を手掛けている。

「両親がつないできた会社を手伝いたい」という思いから入社したのだが、入交知則社長から与えられた仕事は「人を見ることと、本を読むこと」。まずは会社の雰囲気に慣れてほしいという“親心”だったかもしれないが、隅氏には「社会人経験があるのに仕事がない……」という辛い状態が半年近く続いた。そんな日々を送る中で見えてきたのは、この会社が抱える深刻な課題だった。

「○○はどこにあるんだっけ? ○○は誰に聞けばいい? といった会話がよく聞こえてくるんですね。ある日、お客様から過去に行った工事の図面について総務に問い合わせがあったのですが、顧客台帳をはじめ書類は紙で保管され、その束が社内や倉庫に大量に積まれている状態で、どこにあるのかわからない。そのときの『××方面の工事だから、△△さんに聞けばわかるんじゃない?』という会話に愕然としました。書類の管理が属人化していたのです」

このままでは顧客に迷惑をかけるし、事業承継どころか会社の存続すら危うい。そう思った隅氏は「書類管理のクラウド化」を社長に提案。同様の問題意識を持っていた社長も同意し、業務のデジタル化が入社後初の仕事となった。

隅つばさ(すみ・つばさ)
入交電設取締役
​短大卒業後、国内生命保険会社に入社。保険会社で11年間勤務後、父の会社を手伝うため2018年5月に入交電設に入社。建設業における新しい働き方に積極的に取り組んでいる。働き方改革の成果として、入交電設は2019年度「誰もが活躍できるやまぐちの企業」に認定されている。

「いろいろ調べて選んだクラウドサービスが中小企業向けグループウェアの『サイボウズ Office』でした。決め手になったのは、コストの安さと、ITに詳しくない私や従業員にも簡単に使えそうなシンプルな操作性です。さっそく、30日間無料お試しを申し込みました。自社の業務に合わせたアプリケーションが作成できるカスタムアプリを使って顧客台帳や作業日報を作ってみたのですが、触っているうちに何となく操作方法がわかるというユーザビリティの高さに感動しました」

ただ、社長はすぐには本格導入を認めなかった。「今振り返ると、経営者として新しいシステムの導入に慎重になっていたと思います。当時の社内は、会議などなく、意見があっても誰も何も言わないという感じでした。こうした変化に後ろ向きな雰囲気を変え、従業員が働きやすく、風通しのよい職場にするにはどうしたらいいか。この点も大きな課題でした」。

“課題抽出会議”とサイボウズ Officeで改革開始

ちょうどその頃、山口県が主催する働き方改革のシンポジウムがあり、サイボウズのチームワーク総研が講演をするというので、隅氏も参加してみた。

「サイボウズのチームワークや働き方に対する考え方に大変共感しました。こうした考えを根づかせ、従業員が生き生きと働ける環境をつくるには、サイボウズ Officeの活用と働き方改革が不可欠と確信しました。そこでサイボウズ Officeの本格導入に併せて、山口県働き方改革養成講座で学んだ課題抽出会議で従業員の意見を聞きながら働き方改革を進めたいと社長に提案したところ、猛反対でした」

もともと技術者で発明や工夫が好きな社長だが、自社だけが働き方改革を進めても顧客や工事関係者に迷惑をかけるだけではないかという危惧があった。というのも、建設業界では工期厳守の商慣行から「働き方改革は無理」といわれるほど長時間労働が慢性化しているからだ。

それでも、隅氏は諦めなかった。従業員に声をかけ、まずは工務部(7人)を対象に初めての課題抽出会議を2019年6月17日に開催。なんと全員が出席した。課題抽出会議は従業員が一人ずつ自分の意見を発表し、課題意識を共有する場だ。会議に慣れていない人ばかりだったが、隅氏の心配をよそに「コミュニケーションの不足」「作業効率の悪さ」「時間外・休日の課題」などについて多くの意見が出された。

月に1回開催される課題抽出会議の様子。

この場で隅氏が「サイボウズ Officeの導入準備を進めていて、作業日報をデジタル化したい」という話をしたとき、「日報を書くために毎日行列ができている」という衝撃の事実を初めて知った。当時の日報はみんなが同じ1枚の紙に書いていたため、従業員は現場から戻ってきて“順番待ち”をしなければならなかったのだ。しかも、この日報をベースに労務担当者が労働時間を集計するため、自分の残業時間を把握できていなかった。

驚いた隅氏はすぐさま「作業日報アプリ」の導入を決め、サイボウズ Officeの本格運用がスタートした。これを機に、課題抽出会議で従業員の問題意識を吸い上げ、サイボウズ Officeを活用した業務のデジタル化によって問題解決を図るという同社の働き方改革が始まったのだ。

県内の建設業界では難しい新卒採用も実現

作業日報と掲示板から始まったサイボウズ Officeの活用はその後、顧客台帳や工務部工程表、社内メールなど多くの業務に広がっていった。

「作業日報アプリによって“行列”はなくなり、時間外労働や働き方に対する意識改革にもつながりました。従業員からの要望に応える形で休日出勤・有給休暇申請もデジタル化しています。私が勧めたというよりは、実際に使っている従業員が便利さを感じ、自然と浸透していった感じですね」

実際、工務部の稲村滝氏は「お客様からのメールや会社からの指示をスマホで見られるようになり、現場での対応がスピーディになりました」と、サイボウズ Officeの効用を語る。

さらに、「ヒヤリハット」アプリの運用も開始、重大事故を未然に防ぐ活動の強化を図っている。カスタムアプリを使って同アプリを作成したISO管理責任者の三澤美代子氏は「初めて作りましたが、意外と簡単でした」という。この経験から現在、よくある従業員の質問とその回答をまとめた「社内Q&A」アプリを課題抽出会議で提案中だ。

工務部の稲村滝氏(左)と山木翔太氏(右)
ISO管理責任者の三澤美代子氏
 

入交社長も今では隅氏の働き方改革に信頼を置き、次のように話す。「課題抽出会議が始まって1年半ほど経った頃、私も呼ばれて参加したのですが、全員が活発に発言する様子を見て、活気のある組織に変わったことを実感しました。問題意識は工夫のタネですから、今後はお客様に喜んでもらえるような提案にも期待しています」。

代表取締役社長の入交知則氏

こうした取り組みの結果、同社は2019年度に山口県(やまぐち働き方改革推進会議)が選ぶ「誰もが活躍できるやまぐちの企業」に認定され、他の中小企業が課題抽出会議の見学に訪れるほど注目されるようになった。2年前、同社に転職した工務部の山木翔太氏も「課題抽出会議の取り組みについて詳しく説明していただき、職場の活気や仕事のやりがいを感じました」と、入社理由の一つに働き方改革を挙げている。さらに、県内の建設業界では難しいといわれる新卒採用も実現させた。

スモールスタートと従業員の共感が成功の要因

「建設業では無理」とまでいわれる働き方改革が成功した要因は何だろうか。

「スモールスタートと従業員の共感の2つが挙げられます。当社の従業員は10代から80代までと年齢の幅が広く、ITスキルの個人差が大きい。そのため、まずは作業日報と掲示板からサイボウズ Officeの活用を始め、『これって便利だよね!』とみんなに喜んでもらえたことが成功の第一歩でした。そして、生産性向上やデジタル化ばかりを追求するのではなく、コミュニケーションをとりながらお互いに認め合い、支え合う組織づくりを推進。そうしたやり方に従業員が共感し、会社を変える活動に積極的に参加してくれたことが大きな原動力になりました」(隅氏)

サイボウズ Officeの活用と働き方改革によって業務の効率化とともに、従業員が生き生きと働ける環境づくりに力を注ぐ入交電設。隅氏は「まだ道半ば」と言うが、働き方改革の基盤がしっかりと築かれているのは確かだ。