その朱鎔基が2022年3月、93歳で習近平の国家主席3選に反対したと報じられた。独裁が続くと毛沢東のようになるからやめろと言いたいのだ。

これまでは「次の首相は李強リー・チャンだ」と確実視されていた。現在の上海市党委員会書記だ。ところが、上海市は3月末から新型コロナによってロックダウンが続き、食糧不足などで暴動が起こりかねないほど市民の不満が高まった。大きな混乱を招き、彼自身も市民の直接抗議の対象となったことで次期首相の芽がほぼなくなっただろう。問題はここから先だ。

共産党の幹部を見ると、共青団(中国共産主義青年団)の出身者が多い。共青団は若手エリートの組織で、有力指導者の子弟が中心の太子党とはライバル関係にある。習近平は太子党で、共青団が嫌いだ。

実力でい上がってきた共青団のエリートは、親の七光り=太子党に比べて能力が高い。ほかにめぼしい候補者が見当たらないのは対抗馬を絞ってきた習近平の計算違いだろう。

いまの習近平に反対できる者はいない。共青団の出身者は距離を置かれ、首相になる道を閉ざされてしまった。不満分子はたくさんいるはずだ。

次期首相の候補がいるとすれば、安徽アンホイ省の共青団から這い上がってきた汪洋ワン・ヤンだと私は見ている。最高指導部(中央政治局常務委員会)のメンバーで、人民政治協商会議の全国委員会主席だ。18年まで李克強内閣の副首相(国務院副総理)を務めていた。

彼は1980年代に上海市長を務めた汪道涵ワン・ダオハンの甥でもあるので、太子党的な立場の人にも受け入れられやすい。汪道涵は尊敬を集めた大市長で、後に国家主席となる江沢民を引き上げた。江沢民は彼の後継者として上海市長になった。汪道涵は権力にしがみつかず、カネに汚くないところも尊敬されていた。

習近平は、汪洋を首相にすることで、上海閥(江沢民派)を取り込むことができる。上海閥は、89年に江沢民が総書記になって以降、政治の中枢を握った。上海の人間は、だいたい北京が嫌いだ。汪洋が首相になれば、上海閥との関係も丸く収まる。師匠が汪道涵だから、首相の仕事をしっかり務めるだろうという期待もある。

鄧小平モデルは消えかけている

中国共産党のエリートは、市長などを経験した行政官出身者が多い。厳しい競争を勝ち抜いて党の幹部になったのだ。地方の市長は、3年連続で経済成長率をクリアするなどの成果を出すと省長に昇格すると言われている。省長としても業績をあげれば、次は共産党中央委員になって北京へ行く。

厳しいルールの下で成果を出す彼らは、日本の市長とは比べ物にならないほど優秀だ。自分で経済成長をプランニングできる。中央政府からおカネがこないから、自分で外資を呼び込むのだ。広告宣伝部長のような役割を果たす。