仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)――。
ロシア・モスクワの「赤の広場」を走行する戦車
写真=時事通信フォト
2022年5月9日、ロシア・モスクワの「赤の広場」を走行する戦車

イントロダクション

ウクライナ情勢が深刻さを増している。ロシア軍によるとされる攻撃で民間にも多数の犠牲が出ており、ロシアに対する国際世論は悪化する一方だ。

なぜ、ロシアは2014年と2022年に、ウクライナへ軍を差し向けたのか。ロシアの目的は何か。世界地図を広げ、ロシアの外交や軍事戦略を探る必要がありそうだ。

本書では、冷戦後の国際情勢を背景にしたロシアの軍事戦略を、各種資料などをもとに読み解く。2021年5月刊行のため2022年3月現在のウクライナ情勢は反映されていないものの、そこに至るロシアのプーチン政権、軍、軍事思想家たちの思考や思惑を理解する糸口をつかめる内容となっている。

かつてのソ連時代には米国と並ぶ超大国としてのプレゼンスを保っていたロシアだが、ソ連崩壊、東西冷戦の終結とともに国力、軍事力、他国への影響力が低下。ウクライナをはじめとする他国への侵攻の根底には、NATO拡大による脅威への対抗があったようだ。

著者の小泉悠氏は東京大学先端科学技術研究センター(グローバルセキュリティ・宗教分野)専任講師。専門はロシアの軍事・安全保障。民間企業勤務、外務省専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所客員研究員を経て現職。

はじめに 不確実性の時代におけるロシアの軍事戦略
1.ウクライナ危機と「ハイブリッド戦争」
2.現代ロシアの軍事思想――「ハイブリッド戦争」論を再検討する
3.ロシアの介入と軍事力の役割
4.ロシアが備える未来の戦争
5.「弱い」ロシアの大規模戦争戦略
おわりに 2020年代を見通す

バルト三国はほんの30年前まで「ソ連の一部」だった

エストニア、リトアニアとともにバルト三国と呼ばれるラトヴィア。今でこそ北大西洋条約機構(NATO)加盟国となったラトヴィアだが、ほんの30年前まではソ連の一部とされていた。バルト海を挟んでフィンランドとスウェーデンを目前に臨むバルト地域にはソ連の陸海空軍が配備され、冷戦の最前線となっていた。

しかし2004年3月29日に、バルト三国は揃ってNATOへの加盟を果たした。「東側」の総本山から「西側」の一員へ──オセロ・ゲームのような劇的な転換がほんの15年ほどのうちに起きたのである。

この「オセロ・ゲーム」を、ロシア側の視点で考えてみよう。日本第2の都市である大阪から西に150kmほどというと、ちょうど岡山県の倉敷あたりが相当する。ここに中国人民解放軍の基地ができたとしたらどうだろう。冷戦後のロシアから見ると、これは現実の出来事であった。150kmという距離は、ちょうどサンクトペテルブルグ(*ロシア第2の都市)からエストニアの国境に相当する。戦闘機ならばほんの数分だ。