日本の標準がん治療では、他臓器などにがんが転移すると「抗がん剤」を投与することが多い。京都大学名誉教授の和田洋巳医師は「抗がん剤に『がんを完治させる力』は基本的にない。がん治療医らはその事実をよく知っているが、患者や家族らに正しく説明できていない」という――。

※本稿は、和田洋巳『がん劇的寛解』(角川新書)の一部を再編集したものです。

今は無人の病院のベッド
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3大治療の中でも最も効果的なのが「手術」

標準がん治療とは「現時点で最良と考えられているがん治療」です。標準がん治療は「手術」「抗がん剤治療」「放射線治療」を中心に行われます。これらの標準治療法は「3大治療」と呼ばれていますが、このうち治癒の可能性が最も高いとされているのが手術です。

固形がん(肺がんや大腸がんなど、がんが塊を形成するがん。これに対し、白血病や悪性リンパ腫など、がんが塊を形成しないがんは、血液がんに分類される)を例に取ると、原発巣(がんが最初に発生した臓器)以外の他臓器や遠隔リンパ節(原発巣から遠く離れたリンパ節。これに対し、原発巣に隣接するリンパ節は所属リンパ節、近傍リンパ節などと呼ばれる)などに転移がない場合、標準がん治療では原則として原発巣を取り除く手術、すなわち根治を目指した手術が実施されます。

その後、経過観察(術後サーベイランス)が始まりますが、この場合、再発予防のための抗がん剤治療が、一定期間、行われることもあります。この経過観察の期間はがんの種類によって違いますが、おおむね手術から5年が経過しても再発(原発巣以外の他臓器や遠隔リンパ節などへの転移)が認められない場合、がんは治った、すなわち治癒を得たと判定されるのです。

がん種によっては放射線治療だけで治癒を得られるケースもありますが、標準がん治療で手術後の「5年生存率」がとりわけ重要視されているのはそのためです。

どんなに完璧な手術をしても3~4割が再発する

ところが、現時点で最良と考えられている標準がん治療、それも治癒の可能性が最も高いとされている手術を実施しても、一定の割合で再発が起こってくるのです。

2007年まで奉職した京都大学医学部附属病院では、私も呼吸器外科(器官外科)の専門医として数多くの肺がん手術を手がけました。呼吸器外科の教授に就任してからはさすがに後進に対する指導がメインの仕事になりましたが、それでも延べ数で言えば実に2000例を超える肺がん手術をこの手で行ってきたのです。

医学的にも技術的にも完璧な手術、そして身体への侵襲性が低い手術を実施しても、3割から4割の患者で再発が起こってくるのです。しかも、標準がん治療を絶対とする限り、手術で治癒を得た6割から7割の患者とは対照的に、再発を見た3割から4割の患者の多くは不幸な転帰を取ることになるのです。