「LGエレクトロニクスのCEOやCFOなどのCレベルの役員は8人中6人が外国人です。私の直属の上司はイギリス人。人事担当役員もアメリカ人でした」
こう語るのは韓国の同徳女子大学の李尚燮(リー・サムスム)教授だ。李教授は2009年までの6年間、LGEの人事シニアマネジャーとしてグローバル人事戦略や人材育成の中核を担い、現在もLG、現代自動車、ポスコグループなど大手企業のアドバイザーを務める。
国内市場の収縮を背景に新興国をはじめグローバル市場に成長の活路を求める日本企業。だが、そこに強力に立ちはだかるのがライバルの韓国企業だ。すでに電子・電機分野では、価格・技術面の優位性を誇る韓国陣営の前に日本企業は厳しい戦いを強いられている。
そして水面下ではもう一つの“戦い”が始まっている。世界中から優秀な人材を獲得・育成し、戦力化する「人材のグローバル化」という競争である。
海外市場の人材マネジメントの歴史は、まず特定の地域・国の市場をターゲットに自国の社員を派遣。現地スタッフをマネジメントする仕組みに始まり、市場の拡大とともに現地のスタッフに経営を委ねる経営の現地化にシフトしていくという流れを辿ってきた。
しかし今や世界を一つの市場と捉え、国・地域を越えた開発・生産・流通を含む事業戦略を展開する時代に入っている。そうなると人材面ではもはや自国の社員だけでは限界があり、国籍に関係なく世界中から優秀な人材をいかに獲得できるかという人材競争力が重要になる。
また、獲得するだけでは競争力を持続できない。採用した人材を計画的に育成し、グローバル規模の配置を可能にする人材マネジメントの仕組みを構築することが必要だ。そして最終的に地域・本社の経営を担う人材を多く輩出していくことが世界市場で躍進する大きな鍵を握っている。
欧米の先進企業は1990年代後半にこの仕組みをすでに確立している。それに対して韓国、日本の企業は互いに周回遅れでの構築を目指しつつある“踊り場”の状況にあるといえるだろう。
だが、韓国企業は一歩も二歩も先んじている。たとえば冒頭のLGEの外国人役員の数だ。日本企業ではせいぜい1~2人の外国人役員を抱えるか、あるいは「うちの日本人役員の半分は海外経験者だ」と大手企業の社長が自慢する程度のレベルでしかない。前出の李教授は「外国人役員を増やすことには賛否両論あったが、内部にそれだけの能力がある人がいないので外から雇うことになった」とその理由を説明する。