コロナ禍で転職する人にはどんな事情があるのか。2021年に1233人の社員と面談をした産業医の武神健之さんは「コロナ前と比べてストレス内容が変化している。ワークライフバランスについて考え直す人や、プライベートに関する問題で悩む人が増えた」という――。
息子と一緒に家で働く父
写真=iStock.com/Yue_
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働く人たちのストレス内容が変化している

ウィズコロナの生活となり、もうすぐ2年がたとうとしています。

2020年からコロナ禍のため従来の職場ではない場所で仕事をし始め、手探りのリモートワークだった人たちも、2021年は、職場以外でも仕事ができることを確認・確信した年になったと思います。私は産業医として、2021年は1233人の働く人と面談をしてきました。従来のような対面での産業医面談は少なく、9割はZoomやTeams、電話等での実際には職場にいない社員との面談でした。

そのような中、働く人たちが感じるストレス内容も変わってきたと産業医の私は感じました。

今日は、働く人たちの感じる転職したくなるようなストレスについて、3人の産業医面談の事例からお話ししたいと思います。

在宅勤務で「家族との時間を大事にしたい」と実感

1人目はIT会社に勤めるAさんです。勤続10年になる30代後半の中堅社員でした。

Aさんは平日の家事育児は専業主婦の妻に任せ、毎日20~21時頃まで働き、その後、通勤時間1時間の自宅に帰る生活でした。帰宅し、幼稚園に通う2人の子供の寝顔を見るのが毎日の癒やしと語っていました。前の会社ではもっと長時間働いていたこと、今の仕事にやりがいを感じていることなどから、自分の労働時間やワークライフバランスに何も疑問を感じていなかったそうです。

しかし、コロナ禍で在宅勤務をしてみると、家族(特に子供たち)と接する時間が増え、いろいろ思うところが出てきたようです。毎日午後、子供たちは幼稚園から帰宅すると在宅勤務をするAさんのところにその日の話をしにくるそうです。Aさんにとってこれはとても楽しいうれしい時間なのですが、話の止まらない子供たちをいさめて仕事に戻ることや、その時間にミーティングが入っていると「しっ!」と子供たちに向かって怖い顔をしてしまうことがあり、そのような自分が嫌に感じるようになりました。

産業医面談に来られた頃、Aさんは、在宅勤務のおかげで夕食を一家団欒で食べることができるのはうれしいが、夕食後に子供たちからの遊びのお誘いを断り、また仕事に戻らなければならないことに、ストレスと疑問を感じ始めていました。

そのような生活をする中で、今の会社は好きだけど、子供が小さい今こそ、働く時間よりも家族との時間を大切にしたいと感じている自分がいる」ことに気付き、Aさんは現在、職場には黙って転職活動を始めています。