仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは『ヒトはなぜ「がん」になるのか』(河出書房新社)――。
胃の不調に苦しむ男
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです

がんは「エラー」が積み重なり、進化したもの

長らく「不治の病」として恐れられ、治療法、予防法などが研究されてきた「がん」。その最新の成果によると、がんは化学物質や喫煙、放射線などの外的要因による直接作用で生じるものではなく、生まれてから成長の過程で不可避的に起こるエラーが積み重なり、体内で「進化」したものなのだという。

どのように進化するのだろうか。

本書では、世界のがん研究の歴史に触れながら、人ががんを患う理由、体内でがん細胞がどのようなメカニズムで「進化」していくのか、治療法や「がんとの付き合い方」などについて、数々の研究・実験などのエビデンスをもとに詳細に解説している。

がんの進行は自然界の生物進化の縮図であり、がん細胞は体内の環境に適応して突然変異を繰り返すことで、その勢力を広げ、転移していく。そのため、治療にあたっては体内のがん細胞の勢力をコントロールする「適応療法」が有効であることがわかってきている。

著者はサイエンス・ライター。ケンブリッジ大学で発生遺伝学の博士号を取得。「ワイアード」「BBCオンライン」「ネイチャー」などのメディアに寄稿しており、『ビジュアルで見る 遺伝子・DNAのすべて』(原書房)などの著書がある。

1.地球に生命が生まれたところから話は始まる
2.がんは生きるための代償である
3.がんはどこからやってくる?
4.すべての遺伝子を探せ
5.いい細胞が悪い細胞になるとき
6.利己的な怪物たち
7.がんの生態系を探索する
8.世にもけったいながんの話
9.薬が効かない
10.進化を味方につけてゲームをする
11.がんとのつき合い方

がんを招く遺伝子変異の多くは内的要因による

地球に生命が誕生して間もないころ、一つひとつの細胞は独立していた。周囲に存在する他の細胞と干渉し合うことなく、自由気ままに生きていた。だが、独身時代を10億年ほど楽しんだあと、細胞たちは協力し、互いにコミュニケーションをとるようになり、多細胞生物になった。多細胞になることは個々の細胞にとって自律性を失うことを意味する。発生時や成長時、修復時に、自身をいつどこで複製するか、決められたルールに従わなくてはならない。

ところががん細胞はルールを無視し、好き勝手に増殖し、周囲の組織に侵入し、あちこちに移り住み、最終的には宿主もろとも死ぬ。がんは元はといえば私たち自身の細胞で、それが私たちを裏切って、自由奔放に増殖し、体の別の場所に広がっていく。

がんは特定の遺伝子が変異するせいで起こる。私たちは、がんの原因として外的要因、とくに化学物質や喫煙、放射線に注目しがちだが、ゲノムに傷跡を残す変異の多くは内的要因による。細胞はDNAを修復・複製するたびにミスをする可能性をつねに抱えている。大半のエラーは生きているあいだに蓄積する。増殖に有利となる遺伝子のエラーを得た細胞は増殖する。増殖が止まなければ転移がんになる。