プーチンが抱えるジレンマ

実はロシアにとって、ウクライナにはもう1つ特別な意味がある。歴史的には、ウクライナは“ロシアの親”にあたるのだ。

ウクライナの首都キエフには、9世紀から13世紀にかけてキエフ大公国があった。11世紀に欧州で最も発展した国の1つだったが、1240年にモンゴル軍に攻め込まれて崩壊した。

ロシア正教は、キエフ大公国の正教会から派生したといわれる。つまり、宗教上の祖先はキエフなのだ。その点は、ベラルーシと大きく違う。ベラルーシはいま可愛がっているポチで、ウクライナはご先祖さまなのだ。

だからといって、軍隊を使ってルガンスクとドネツクを取りにいけば、年金生活者をさらに引き受けることになる。プーチンが抱えるジレンマだ。プーチンはとにかく現状維持を希望しているのだ。

バイデンは、ウクライナとロシアの関係も、プーチンの葛藤も理解していないだろう。彼らはそもそも歴史に目を向けない。「新疆ウイグル自治区の綿は強制労働の産物だ」と非難するとき、自分たちが19世紀に綿花栽培でアフリカから違法に連れてきた奴隷たちに強制労働させたことを忘れている。

彼らは他国が軍事的な動きを見せると「キャーッ」と騒ぐ癖がある。1962年のキューバ危機では、カストロ政権がソ連軍のミサイル基地を建設すると知って、ケネディ大統領が大騒ぎした。当時を思い出せば、プーチンの危機感も想像がつくだろう。キューバからワシントンDCは約2000キロメートルあるが、ウクライナの国境からモスクワはわずか700キロメートルしかない。

従って、米国が「NATOの東方拡大はありません」、あるいはウクライナがNATOに加わってもミサイル配備はしません、と約束すればプーチン、そしてロシア国民も落ち着くはずだ。

日本の報道は、米国の目線で伝えるから本当の事情がわからなくなる。政治家もマスコミも、もう米国の目線のみで考えるのはやめたほうがいい。

(構成=伊田欣司)
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