プーチンの大きな悩み

この圧倒的な投票結果から、クリミアは「ロシアに入れてください」と申し入れ、ロシア議会が承認した格好だ。つまり、住民の意思を反映する民主的な手続きはしっかり踏んでいる。米国が後押しした「アラブの春」諸国や11年の南スーダン独立より民主的だろう。

クリミアはもともとロシアの別荘地で、人口約250万人のうち、ロシア人が約6割いて、ウクライナ人は3割に満たない。ロシア系にいわせれば、クリミア半島はウクライナ国内で差別されている。ロシアの別荘地として栄えた頃と違い、まるで発展していない。

ロシアに併合されたあとは、ロシアのタマン半島と結ぶクリミア大橋ができて、自動車も鉄道も行き来している。地つづきになって経済発展が期待できるのだ。

ただし、ロシアがクリミアを併合したことで、双方がハッピーになったわけではない。プーチンの大きな悩みが第二幕だ。

ウクライナのダメな政府は、クリミアの人たちに年金を用意していなかった。高齢者が多いクリミアの年金は、ロシアが負担することになる。収奪するどころか、プーチンの本音は、お荷物を背負い込んだ気分だろう。

ロシア国内は、旧ソ連の頃から年金の積み立てが少ない。そもそもプーチン人気は、エリツィン時代に困窮した年金生活者を救ったことで高まった。年金は長年の大問題であり、救済がプーチンの得意技だった。彼はクリミアで同じ悩みを抱えている。

もしロシア併合を望んでいるルガンスクとドネツクまで受け入れたら、ロシアの年金制度は破綻しかねない。バイデンはロシア軍が10万人規模で配備されたと騒いでいるが、プーチンには収奪の意思はない、と私は見る。仮に侵攻するとしたら首都キエフを押さえ、(残っているかどうかは不明だが)年金資金を収奪するしかないだろう。

軍事でいえば、ヨーロッパにはNATO(北大西洋条約機構)がある。冷戦時代にソ連に対抗するため、軍事的協力と集団防衛を約束して設立したものだ。バルト三国をはじめとする旧東側諸国も、2000年以降に続々とNATOに加盟した。

プーチンにとっては、NATO軍がどんどん迫ってくるようなものだ。緩衝地帯になっているウクライナとベラルーシまで加盟したら、目と鼻の先にNATO軍のミサイルが配備されたような思いになるだろう。

原発事故が起きたチェルノブイリは、ウクライナ北部にある。ロシアとの国境が近く、ロシアのブリャンスクは甚大な被害を受けた。ベラルーシとも近く、三国の境界のようなエリアだ。

もしチェルノブイリにNATO軍の短距離ミサイルが配備されたら、モスクワまでは至近距離だ。モスクワが東京なら、大阪に配備されるぐらいの距離感だ。プーチンは、ウクライナが反ロシアの橋頭堡になることだけは絶対に避けたいだろう。