法改正の影響などから、銀行窓口での「本人確認」が厳しくなっている。そのことを知らず、トラブルに巻き込まれる人も少なくない。司法書士の岡信太郎さんは「たとえば『父親の家のリフォーム代を、父親の口座から払う』というケースでも、本人の確認なしに家族が費用を引き出せる可能性は低い」という――。

※本稿は、岡信太郎『財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

家庭の金銭管理のイメージ
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

高齢の父のため実家をバリアフリー化

“しまった!”と木戸さん(56歳、男性)は、心の中で叫びました。

木戸さんの父親は体調が悪くなり、現在病院に入院して治療を受けています。本人は回復でき次第“家に戻りたい”と言っています。

とはいえ、実家は昔ながらの日本家屋で段差も多く、体が弱った父親が暮らすには不便な造りとなっています。今後も自宅で生活するとしたら、手すりを設置するなどバリアフリーにやり替えなければなりません。他にも、ベッドなどの購入が必要となります。

本人の希望をできる限り叶えたいと考えた木戸さんは、知り合いのリフォーム会社に見積もりを依頼しました。後日、見積書を受け取ると総額180万円と記載されています。

実は木戸さんは、このタイミングで、古くなり傷んでいる別の個所もやり替えたいと考えていました。フローリングの床が沈み始めており、畳もかなり劣化しています。一番心配なのが、窓のサッシが木造なことです。老朽化で何本か外れてしまっていて、まったく防犯の機能を果たしていません。最近は近所に空き巣が入ったとの話もあり、このままにしておくのは物騒です。

このような事情もあり、“ここは思い切って全面的にリフォームしたい”という気持ちが強くなったのです。リフォーム会社に相談すると、希望通りにすると、追加で200万円はかかるとのことでした。

父親が退院できる見込みが出てきたことから、木戸さんは全面リフォームを決心しました。そして、リフォーム会社に正式に依頼しました。リフォームは約1カ月かかり、無事に完了しました。

「あれ、お名前が違いますが?」

家の中が見違えるほど変わり、父親がまた自宅で生活できるようバリアフリー化もされています。以前から気になっていた部分についても、一新することができました。木戸さんは、家の中を見渡しながら思い切ってやってよかったとすっかり安堵あんどしました。後は父親の退院を待つだけ、のはずでした……。

リフォーム会社から請求書が届いたので、父親の通帳と印鑑を持って銀行に支払いに行くことにしました。これまでも入院費をATMで振込んでいたのですが、今回は金額が大きいため窓口での支払いとなります。

番号札を取り、呼ばれるのを待ちました。そして、木戸さんの番号が呼ばれ窓口に通帳を提出しました。すると、窓口の担当者から、

「お振込みですね。免許証などの本人確認資料のご提示をお願いしてもよろしいでしょうか?」

と本人確認資料の提示を求められました。そこで、財布から自分の免許証を取り出し、担当者に渡しました。

「木戸様ですね……。あれ、お名前が違いますが?」
「通帳は父のもので、私は息子です」
「窓口でお手続きをされる場合は、口座名義人ご本人にご来店して頂く必要があります」

と言われてしまいました。