3人姉妹の中間子である女性は、小学校に上がってから姉妹の中で唯一家事を強要されていた。父親の他界後、姉はある事件を起こした後、音信不通に。母親はアルツハイマー型認知症を発症。女性は母親を介護し始めるが、日々罵声を浴びせられ、妹は母親の介護から逃げ出した。人にやさしく情け深い女性はすべてを背負い、精神的にまいってしまう――。
月明かりに照らされる家屋
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【前編のあらすじ】
関西在住の門脇玲子さん(仮名・40代・独身)には2歳上の姉と2歳下の妹がいる。小さい頃から姉は家では常に不機嫌で、外ではいい子を演じ、友達の多い門脇さんをやっかみ、執拗に罵詈ばり雑言を浴びせた。だが、両親はそれをとがめない。門脇さんが社会人になった頃、父親が転落死すると、家族の形はさらにイビツなもになっていった――。

包丁事件

父親が亡くなってから母親(当時49歳)は鬱のような症状が続いており、気が弱くなっていたのか次女である門脇玲子さん(仮名・40代・独身)に、「仕事を辞めて、家事に専念して」と頼んだ。門脇さんは当時、体調が優れない日が続いていたため、母親の頼みを受け入れ、それまで勤めていた小売店の店長の仕事を辞めた。

一人暮らしを始めた姉(当時27歳)は定職につかず、1〜2カ月に1回は門脇さんと母親・三女が住む家に泊まりにきては、毎回母親からお金をむしり取っていった。5年ほどで母親の貯金が底を突くと、姉は生活保護を申請。生活保護を受けるようになってからも、姉はときどき門脇さんたちの家に来ては、母親から小遣いをせびり取っていった。

また、これまでと同じように、門脇さんに頻繁に電話をかけてきては罵詈雑言を浴びせ、母親に対しても子供の頃から積もり積もった不満をぶつけていた。

そんな2010年ごろのこと。泊まりに来ていた姉の機嫌が珍しくよく、母親と姉妹の4人で穏やかに会話をしていたが、話題が妹に移った途端、姉が烈火のごとく怒り出した。母親へ不満をまくし立てた揚げ句、こう怒鳴った。

「ずっと私が家族の犠牲になってきたんだ! 私がいつも正しいからアンタらは私の言うこと聞いてたらええんや!」

すると、母親が姉の胸ぐらをつかんで言った。

「アンタは何様や! アンタを中心に世界が回ってるんやない! 何偉そうに言うとんねん!」

姉は、「怖い怖い!」と言いながら母親を振り払う。そしてキッチンから包丁を持ってきて、「死ぬ!」と叫んで自分の体に突き立てた。

その瞬間、とっさに門脇さんが姉の後ろへ回り羽交締めにすると、母親が包丁を取り上げた。その後も姉は暴れ続けたが、門脇さんだけで必死に抑え込んだ。包丁を取り上げたあと、母親は呆然とし、妹はただ傍観していた。

その晩、門脇さんは姉に精神科へ行くように説得。姉が「女医さんがいい」というので探し、予約をとると、姉は通院し始めた。

一方、門脇さん自身も、この一件以降、動悸や震えが収まらなくなり、心療内科を受診。門脇さんが最近の不調と、幼稚園に入った頃あたりから記憶の欠如が見られるようになり、幼稚園の頃の記憶も小学校での記憶も、あまり残っていないことを話すと、心療内科医は、「姉からの執拗な嫌がらせが原因と思われる」と指摘。そして、「幼少期の記憶を取り戻す治療を行ったほうがよいのですが、近くに専門医がいないので、今お困りの症状を抑える治療をしましょう。お姉さんとはできるだけ関わらないように」と言った。