前大脳動脈解離による、くも膜下出血、脳梗塞を発症し、2021年1月に救急搬送されたお笑いコンビ、爆笑問題の田中裕二さん。幸い大事には至らず、1カ月ほどで仕事にも復帰したが、このように突然、脳・心血管疾患を発症する人が近年増えている。脳・心血管疾患は日本人の死因の2位と3位で、合わせると1位のがんと同レベルだ。脳卒中の死亡率は低下傾向にあるものの、後遺症が残るケースは逆に増加傾向にある。それでは、予兆や進行を自覚しにくい脳・心血管疾患はどのように予防すればいいのだろうか。田中さんと、血圧計の世界累計販売台数3億台を達成するなど、グローバルでヘルスケア事業を展開しているオムロン ヘルスケア執行役員、吉村実氏との対談を通じて考えてみたい。

予兆はナシ、まさに“突然”の発症

【吉村】前大脳動脈解離による、くも膜下出血、脳梗塞を発症されたそうですが、仕事にも復帰され、お元気そうで何よりです。

【田中】ありがとうございます。病院へ救急車で搬送されたんですが、じつは車中で「左足を動かして」と言われたとき、「ウッ」とやっても動かない感覚があって。要は麻痺が起きていたんですね。その後、1週間入院した後、大事をとって1カ月静養しました。幸い手術の必要もなく、後遺症もありません。もちろん、左足も問題なく動きます。くも膜下出血や脳梗塞といえば命に関わる大変な病気ですから、運が良かったんだと思います。

【吉村】発症の原因は何だったのでしょうか。

【田中】私もお医者さんに聞いてみたんですけど、何が原因かはっきりとはわからないそうです。私自身もなぜなんだろう、と。ただよく考えてみると、年末年始にかけて、毎年そうなんですけれど、かなり忙しくて疲れやストレスが溜まっていたのかもしれません。でも、それが直接の原因かどうかはわからないですね。

人間ドックも毎年受けていますが、とくに問題はなかったと思います。むしろ上の血圧は100程度と低めなんですよ。ですから、自分がこういう病気になるなんて心配したこともなくて、予兆もなかったし、まさに“突然”という感じでした。

田中 裕二(たなか・ゆうじ)
1965年生まれ。お笑い芸人・タレント。1988年、太田光とともに漫才コンビ・爆笑問題を結成。政治から芸能界まで様々な社会現象を斬る漫才は、若者だけでなく幅広い年齢層に支持されている。現在、テレビ・ラジオのレギュラー番組に出演する他、雑誌の連載も手がける。また、ピンとしてもドラマや映画など幅広く活躍中。2015年、タレントの山口もえと結婚。3児の父。

【吉村】脳梗塞や心臓発作などの脳・心血管疾患は、一度発症すると生命の危機や後遺症の恐れがあることから、医療の世界ではイベント(重大な事象)と呼ばれています。そして、その発症数は年々増加しています。

イベントにつながる大きな要因とされるのが、高血圧症などの「生活習慣病」です。食事や運動、喫煙、飲酒などの生活習慣がその発症・進行に関わる疾患のことですが、何か思い当たることはありますか。

【田中】健康にものすごく気をつけていたわけではありませんが、お酒も飲まないし煙草も吸いません。あえていえば、中性脂肪値が基準よりやや高めというくらい。

「田中裕二=お菓子好き」というイメージがあって心配していただくこともあるんですが、自分では食べ過ぎというほど食べている感覚はないです(笑)。お医者さんも「血液検査で血がドロドロしているわけでもないし、それが原因とは言えないでしょう」とおっしゃっていました。

予防には「家庭での継続的な血圧測定」が大切

【吉村】漫才や司会をするにはすごくパワーが必要だと思いますが、復帰に向けてどのような準備をされたのでしょうか。

【田中】静養期間中はお医者さんやうちの事務所の太田光代社長、妻にサポートしてもらいながら、ゆっくり体と心を休めることができました。軽いウォーキングや、いつも相方の太田の家でしていた漫才の稽古を徐々に始めたりして、仕事の感覚を戻していったという感じです。

ただ、体に負担をかけたら危ない、という得体の知れない不安感を抱くようになりました。例えば、ちょっと重い荷物を持つとき、「こんな重い物を持っても大丈夫かな?」と心配になります。「ヨイショ!」と持ち上げたとき、プチンといって再発したらどうしよう、とか。そうした私の不安感で、周りの人たちに気を遣わせてしまっているのかもしれません。

復帰できたときはうれしかったですね。また、多くの方にご心配・ご迷惑をおかけしたんだな、と改めて健康の大切さを実感しました。皆さんにいろいろ気遣っていただき、本当に感謝しています。ただ、楽屋からお菓子が一斉に消えました! ありがたい話ですが、正直に言えば、お菓子が原因ではないと思うので少しは置いてほしいかな、と(笑)。

【吉村】たしかに、お菓子も適量ならいいですよね(笑)。そうした食生活での注意ももちろん大切ですが、田中さんは退院後、ご家庭で血圧測定を始められたそうですね。

【田中】「再発予防のため、毎日朝晩測るように」と、うちの社長から手首式血圧計をプレゼントしてもらいました。それがオムロン ヘルスケアの製品だったんです。「ちょっと大変かも」と思ったんですが、初めてでも簡単に測れましたね。

【吉村】じつは、私たちが血圧計の販売を始めたのは50年近く前の1973年。今ではグローバルで累計3億台以上を販売し、世界中の方々にご愛用いただいています。田中さんは1日何回、いつ頃測っていますか。

吉村 実(よしむら・みのる)
オムロン ヘルスケア株式会社
執行役員 循環器疾患事業統轄部 統轄部長
1993年オムロン入社、健康医用機器統轄事業部で国内向けの営業、営業企画・マーケティングを担当。欧州・アジア現地法人のマネジメント、グローバル商品企画を経験後、2019年度より現職。血圧計や心電計などのデバイス、アプリ、サービス事業を統轄。

【田中】朝と晩、それから仕事用カバンに入れておいて、気になったときにも測ったりしていました。「朝は血圧が低い」というイメージがあったんですが、私の場合はむしろ晩のほうが低いことが多かったですね。といっても高くて100を少し超えるくらいで、だいたいいつも100前後です。そのせいか、血圧が高くなるときの自覚がないんですね。「今日はちょっと頭が痛いなあ」というときでも、普段とあまり変わりませんでした。

【吉村】おっしゃるように、私たちは血圧が高いのか低いのか自覚できないので、確認するには測るしかありません。脳・心血管疾患の発症につながる高血圧であっても、痛みなどの症状が出ないことが多いので、見逃されたり放置されたりしがちです。ですから、予防するためには、日頃から血圧を測定し、血圧の傾向を詳しく把握して上手にコントロールすることが重要なんです。

当社では、世界中で脳・心血管疾患の発症をゼロにしたいという思いから「ゼロイベント」というビジョンを掲げて事業を展開しています。じつは、社内でも血圧の高低にかかわらず、全社員が家庭で1カ月間血圧を測る「ゼロイベントチャレンジ」を年2回行っているんですね。実際に測ってみると、定期健診ではわからなかった普段の血圧が高めな社員が発見されるんです。

健康管理のためにも「家庭での継続的な血圧測定」をおすすめしたいですね。血圧は年齢とともに上がっていく傾向がありますから、田中さんもぜひ続けてみてください。

健康への“気づき”が測定を続けるモチベーションに

【田中】私の場合、血圧を把握できていることで安心してポジティブに行動でき、メンタル面でも役立った気がします。途中で毎日は測らなくなってしまったんですが、長く続けるコツってありますか。

【吉村】血圧は1日の中でも常に変動しています。例えば、大事な会議の前に測ってみたら普段100程度の人が150~160に上がっていたり、ラーメンを数日間食べ続けていたら血圧が上がっていたり、とか。変動のパターンやタイミングは人によって様々ですが、それを把握することで食生活などに注意することができます。そうした健康への“気づき”が、血圧測定を続けるモチベーションにもなるのではないでしょうか。

【田中】血圧は環境の変化によってそんなに影響を受けるんですね。今まで測ったことはありませんが、テレビの収録や漫才の前は、もしかしたら結構上がっているかも。今度試してみようかな。

眉間にしわ寄せて「今日は大丈夫か?」なんて測っていると、それこそ血圧が上がっちゃいそうなので、私の場合はゲーム感覚で記録していくくらいが長続きしそうです。今、スマホに歩数計があるので、たまに見てみると「今日こんなに歩いたの!」なんて思ったりしますけど、そんな感じで使っていければいいですね。

オムロン ヘルスケアの手首式血圧計は、アプリと連動することで計測データをグラフ化することもできるそうですね。私はまだ利用したことはありませんが、それをお医者さんに見てもらえば、より的確なアドバイスがもらえそうです。

田中さん本人が使用しているオムロン製手首式血圧計。取材当日わざわざ持参して頂いた。所属事務所タイタンの太田光代社長からプレゼントされたそうだ。

子どもの成人式には72歳。それまでは元気で働いていたい

【田中】腕時計のようにいつもつけられるウェアラブルタイプなど、血圧計もどんどん進化しているようですね。

【吉村】はい。血圧計を使う人にとって、できるだけ簡単に、そして負荷にならないように、なおかつ正確に測定できるように進化していっています。さらに当社では今、京都大学と共同で、家庭で測定したバイタルデータから「その人に最適な血圧改善方法を導き出すAI」と、イベントの予兆を高い確率でより早く発見する「予兆検知AI」の開発を進めています。これによって脳・心血管疾患の重症化予防を目指しています。

【田中】それはすごい! これから少子高齢化がさらに進んでいきますが、脳・心血管疾患の後遺症で介護が必要なお年寄りが増えていく可能性もありますよね。実用化すれば、そうした患者さんも減っていくはず。ぜひお願いします!

【吉村】ありがとうございます。田中さんもお体には十分お気をつけくださいね。これからもご活躍をテレビでずっと拝見したいと思っています。

【田中】はい、がんばります! 一番下の子は今4歳ですが、52歳のときの子どもなので成人式を迎えるとき、私は72歳。「子どもが成人するまでは死ねない」と昔からよく言われますが、その気持ちが今は痛いほどわかります。それまでは元気で働いていたいので、今日からまた、毎日血圧を測ります!(笑)

今日は大変勉強になりました。まあ、こんな私が言うのもなんですが、日々の健康管理はもちろん、脳・心血管疾患の予防、早期発見・早期治療のためにも、年齢に関係なく、より多くの人に「家庭での継続的な血圧測定」が定着していくといいですね。