すい臓は胃や腸の陰に隠れ、がんの発見が極めて難しいことから「暗黒の臓器」とも呼ばれている。国立がん研究センター検診研究部部長の中山富雄さんは「超音波検査前にある飲み物で胃を満たすことで、これまでとても発見できなかった小さなすい臓がんを見つけられるようになった」という――。

※本稿は、中山富雄『知らないと怖いがん検診の真実』(青春新書)の一部を再編集したものです。

人体臓器の解剖図(膵臓)
写真=iStock.com/magicmine
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早期発見できないがんも、慌てる必要がないがんもある

がんは「早期発見・早期治療で治る病気になった」と、よくいわれます。治療するにしても絶対に入院が必要というわけではなく、働きながら通院治療という方もたくさんいます。

1981年以降、2020年に至るまで日本人の死因のトップであったがんが、「早期発見・早期治療で治る病気になった」という情報は、多くの人に安堵をもたらしたと思います。

しかし、「ただし」という次のような注釈をつけさせてください。

①ただし、早期発見をしても慌てて治療する必要がないがんもある。
②ただし、早期発見できないがんもある。

【図表1】がんの早期発見が役に立ちやすい場合・立たない場合
出所=中山富雄『知らないと怖いがん検診の真実』(青春新書)

①に当たるがんは、図表1の「早期発見が役に立たない場合」です。

甲状腺がん、前立腺がんなどが当てはまります。

どちらも大半は進行がゆっくりで、発見可能になった段階から実際に症状が出る進行がんまで、10~30年かかる場合もあります。

例えば、今現在50歳のあなたに進行が遅いがんが見つかったとします。まずはどの段階のがんかを落ち着いて見極めましょう。おそらく、発見可能になった直後では転移や浸潤はすぐには来ないので、身体になんら悪さをする力はありません。

このがんが本当に健康被害を及ぼす進行がんになるのは10~30年後。早くても定年後でしょうから、それまでは定期的に検査をしてがんの様子をうかがいつつ、がんのことはそれほど気に留めずに過ごして大丈夫です。10~30年のスパンであれば脳卒中など別の大きな病気のリスクのほうが大きくなるでしょうし、縁起でもない話ですが、がんが育つ前に天寿を全うする可能性だってあるのです。

さて、②のがんは早期発見できないがんです。発がんから症状が出る早期がんまでの期間が短いため、この間に検査がタイミングよくおこなわれないと早期で見つけることはできません。

しかし、早期がんになってから進行がんになるまでは瞬く間です。自治体のがん検診の場合、がんによって検診の間隔は1年、または2年と設定されていますが、早期がんから進行がんまでの期間が検診間隔よりも短いので、ここでも通常の検診で発見することはできません。

②のがんには、北斗晶さんの乳がんや、水泳の池江璃花子選手の白血病が当てはまります。

白血病は採血ですぐにわかります。池江さんはトップアスリートの健康管理の一環として定期的に血液検査をおこなっていたそうですが、3カ月前の段階ではまったく気配はなかったそうで、②のタイプのがんの発見がいかに困難かがわかります。

さて、最後に③のタイプのがんについて。

③のがんは早期がんから進行がんになるまでの間にほどほどの期間があり、がんごとに適切な検診間隔が設定されているので、定期的な検診で見つけることが可能です。

がん検診のターゲットは③のがん。見つけやすく、見つけた時点で治療法の選択肢があり、時間的な余裕もある。がん検診の目的である「がんによる死亡率を減らす」が達成できるのです。