創業者がいなくなったリクルートは、事件後も成長を持続すると、江副が亡くなった翌年の2014年10月東証一部上場を果たし、時価総額7兆8000億円の企業となった(2020年11月時点)。だが、リクルートのホームページ上の社史には、リクルート事件のことも、創業者・江副浩正の名前もない。

「リクルート事件・江副冤罪説」を唱えるジャーナリストの田原総一朗は、当時、リクルートコスモス上場の主幹事を務めた大和証券会長の千野冝時に尋ねている。資本主義社会では株は上がりもするし下がりもする。上場前の株は「賄賂」になるのだろうか、と。千野はこう答えた。

「企業がはじめて、店頭や東証二部などに上場するときに、つきあいのある人、知人、社会的に信用のある人々に公開前の株を持ってもらうのは、当たり前のことで、どの企業もがやっている証券業界の常識ですよ」

世界の成長から取り残された日本経済

ひとりの起業家を、社会全体で吊るし上げ、犯罪者の烙印を押した「リクルート事件」とは、いったい何だったのか。

江副の「部下」だったジェフ・ベゾスは、アマゾンの株式時価総額が1兆5000億ドル(約160兆円)に迫り、1663億ドルを保有する世界一の資産家になった(『フォーブス』誌の世界長者番付)。アカデミー賞授賞式会場の客席に座ると、司会者が紹介しテレビで大写しになるほどアメリカを代表する名士でもある。

コンピューター・ネットワークに未来を見たふたりのその後の明暗は、日本経済と米国経済の今に投影される。

リクルート事件で江副が逮捕された1989年、日本企業はわが世の春を謳歌していた。その年の「世界の株式時価総額ランキング」を見ると、1位は民営化から5年を迎えたNTT。2位から5位までに日本興業銀行(現・みずほ銀行)、住友銀行(現・三井住友銀行)、富士銀行(現・みずほ銀行)、第一勧業銀行(同)の大銀行がずらりと並ぶ。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)が7位、東京電力が9位で、ベストテンのうち実に7社が日本企業である。その下にはトヨタ自動車、日立製作所、松下電器産業(現・パナソニック)、東芝といった製造業が名を連ね、ベスト20社のうち実に14社が日本企業だった。

30年後の2020年10月末時点の世界ランキングで、50位以内に入っている日本企業はトヨタ自動車(49位)ただ1社。トヨタの時価総額は約24兆円で、韓国・サムスン電子(16位、約40兆円)にも遠く及ばない。ベスト10には中国のアリババ・グループ(6位)とテンセント・ホールディングス(8位)が顔を出し、トップ50には実に9社(香港のチャイナモバイルを含む)の中国企業が名を連ねている。

リクルート事件から30年。つまり平成の30年間、日本経済は世界の成長から完全に取り残されたのである。

一方、世界のランキングの上位はこうなっている。