なぜ日本の親子は互いに過剰な愛着を持ちがちなのか。エッセイストの内田也哉子氏と脳科学者の中野信子氏の共著『なんで家族を続けるの?』(文春新書)より一部を紹介する――。(第2回)

樹木希林が孫を海外の全寮制学校を薦めた理由

【中野信子(脳科学者)】一口に言うのは難しいのだけれど、人間はどうして苦しんで子どもを産むんだろうと思ったの。昭和の価値観の中で私たちは育ったでしょ。母親はどうしてこんなに義務を背負わされて、性別非対称的に子孫を繁栄させる役割を担わされているんだろうという疑問が子どもの頃からあったんです。そのしわ寄せが次世代に、そのまた次の世代にと、綿々と受け継がれていくわけでしょう。

エッセイストの内田也哉子さん
エッセイストの内田也哉子さん(写真提供=文藝春秋)

【内田也哉子(エッセイスト)】過剰な義務となってつい、毒親にもなっちゃいますよね。誰しもが毒親になる可能性があるし、自分も意図しなくても毒親になってしまっていることがある。私は心当たりがあり過ぎて、もう子どもたちに土下座したい気持ちになる。

【中野】私だって条件さえ整えばきっと毒親になってしまう。そういう「自分は毒親なのではないか」「毒親になるのではないか」と怖れている人たちは、その業から解放されてほしいと思った。完璧な人間なんていないんだから。

不完全な人間が人間を育てるというこのシステムの脆弱性を、どう手当てできるのだろう。そう考えると、プロの「育てるスペシャリスト」が、養育者という役割を担うほうがより良いのではと思ったんです。つまり、子どもを育てるのは親ではないという社会を思考実験的に考えてみたいと思った。

【内田】欧米では昔からそういうシステムがありますね。

【中野】日本でも身分の高い人がそうだったでしょう。産む人と育てる人が別だった。

【内田】うちの長男と長女は十二歳で欧州のボーディングスクール(全寮制の寄宿学校)に入れたんだけど、それは特に長男のとき、私たち夫婦が過干渉だったからなんですよ。初めての子だから、ちゃんと育てられているのかという不安も重なって、いちいち子どものやることに口出ししているうちに、すごく萎縮する子どもになっていた。それを母が見ていて、「とにかく一刻も早く海外に出しなさい」と言われたのがきっかけでした。

【中野】希林さん、さすがですね。