書店に行くと、「なりたい自分」になるための「ソリューション」や「極意」を謳う、いわゆる自己啓発書がずらりと並んでいる。読書会「闇の自己啓発会」のメンバーである江永泉と木澤佐登志によれば、そこには昨今の「陰謀論」とも通ずる、「世界全体を一つの原理のもとへと単純化する」ニーズが見いだせるという――。
ドナルド・トランプ
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「自己啓発」の変遷

書店に赴くと、「社会人」になろうとするひとや、「社会人」になったひと向けだとされる、さまざまな本が平積みになっています。サプリメントや栄養ドリンク、「清潔感」に必要なあれこれの用品のごとく、ちょっと足を運べば買えるところに、それらはあります。

それらのタイトルや帯には、「超」、「最強」、「ソリューション」、「極意」、「方法」、「法則」、「分析」、「力」、「助言」、「教え」、「気づく」、「ラクになる」、「身につく」、「これさえあれば」等々……といった文字列が頻出します。

それだけでなく、どこかで大事だと言われていた気がする熟語やカタカナ語や英語、もし解けたならば全てが上手くいきそうな問いかけ、じゃっかん命令じみている断言、……といった、読んだひとを「なりたい自分」にさせる効能があると主張する様々な惹句が踊っています。

そして、いかにも苦労を耐えしのいで勝ち抜いてきたのであろうと想像させる、「深み」の滲む人物の写真で、本の帯や表紙が飾られていたりします。

これらの本は、一般に「自己啓発書」と呼ばれています。どうやら「ビジネス」や「生き方」や「スピリチュアル」や「就活」の棚に置いてある本なども含めて、そのように一括りにする場合があるようです。しかし、「自己啓発」とは、一体なにを意味しているのでしょうか。

400万部以上売れた『脳内革命』(1995年)

社会学者の牧野智和によれば、当初この言葉は、高度経済成長期下の労務管理の文脈において現れたといいます。ですが、その後「自己啓発」という言葉は、時代の変遷とともに意味もまた変化していきました。

春山茂雄『脳内革命』(サンマーク出版)
春山茂雄『脳内革命』(サンマーク出版)

たとえば1980年代には、ニューエイジ文化(占星術的観点から、魚座の時代が終わり、水瓶座の時代が来て、人類が真実に目覚めると期待されたらしいです)と結びつき、「精神世界の探求」といった文脈で用いられることが多くなりました。また、1990年代になると、より学問的な装いをまとう形で内面、つまり「心」がかつてないほど注目され、心理学者がマスメディアに登場して発言するようになります。

それと呼応するように、深層意識に隠された「ほんとうの自分」を明らかにしてくれると主張する心理テスト読み物が流行り、さらにそこから進んで、自分自身の「変革」を促す書籍が1990年代半ば頃からベストセラー入りしてくるようになります。その分水嶺として牧野の挙げる本が春山茂雄『脳内革命』(1995年)で、これは400万部以上売れたといいます。