突如浮上した「東京五輪に中国製ワクチン」

今夏に迫る東京オリンピック・パラリンピックの催行可否が議論されている中、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は、中国製ワクチンを大会に導入する考えを突如ぶちあげた。予想外の展開に日本側は困惑、組織委員会の武藤敏郎事務総長は「事前に話は全く聞いていない。ワクチン接種は国による決定事項だ」とコメントするのが精いっぱいだった。

国立競技場を視察する国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長=2020年11月17日、東京都新宿区[代表撮影]
写真=時事通信フォト
国立競技場を視察する国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長=2020年11月17日、東京都新宿区[代表撮影]

のちに触れるが、五輪参加にワクチン接種は義務付けられていない。選手や関係者にとっては強制接種に迫られるとの誤解を招きかねない会長発言の背景には何があるのか。公式資料と関係者への取材をもとに現状を探ってみることにしたい。

バッハ会長の発言は3月11日、IOCの定例総会の席上で飛び出した。東京五輪実施に向けたオンラインでの5者会談で、事前打ち合わせが全くない中、「中国オリンピック委員会から、今夏開催予定の東京五輪・パラリンピックと2022年冬季北京五輪・パラリンピックの参加者にワクチンを提供するとの申し出があった」と述べた。

これを受け、「ワクチン未接種の選手・役員は、中国製ワクチンを打つよう求められる」と受け取った報道が世界を駆け巡った。中国とIOCの癒着を疑う意見も重なり、日本のみならず、世界各国のメディアが会長発言の真相を追う記事を一斉に報じた。

ワクチン接種は「推奨および支援します」

まず、IOCはワクチンへの対応をどう考えているのだろうか。先に刊行された「東京五輪出場選手向けの参加マニュアル」に当たる「公式プレイブック アスリート/チーム役員」を読むと次のような記述がある。

「IOCはオリンピックチームとパラリンピックチームにワクチン接種を呼びかけます」「日本入国前に自国のワクチン接種ガイドラインに従って自国でワクチン接種を受けることを推奨および支援します」

さらには、「日本の皆さんには、(東京五輪が=編集部注)大会参加者だけでなく日本人自身をも保護するためにあらゆる措置が施されていると確信をもってもらうべきと考えています」と、東京五輪が日本国内でのコロナウイルス拡散の原因にならないよう配慮を重ねているという姿勢もみられる。

結論として「大会参加に際しワクチン接種は義務ではありません」と明示している。