「食料不足」がクマ出没の原因ではない

クマの大量出没が起きたとき、その理由としてよく指摘されるのは、「食料となるドングリの生るブナ類などが山で不作なのでは」というものだが、40年以上クマの生態を研究している日本ツキノワグマ研究所の米田一彦氏は、“ドングリ不作説”には懐疑的だ。

「ブナ類の不作は大量出没の一因ではありますが、すべてではない。08年にも、ブナの大凶作によるクマの大量出没を森林総研が予測しましたが、結果は平穏でした。(大量出没は)ドングリの不作要因よりも、人間社会の社会構造の変化による影響が大きくなりつつある」

米田氏が指摘する「社会構造の変化」とは、いわゆる“里山”の荒廃である。

「かつては集落に近い里山は、炭焼きや草刈り場として人間の手が頻繁に入っていました。だからクマたちは、その奥にある奥山にしかいませんでした。ところが平成になって里山を管理する人が減り、里山が奥山のように繁茂すると、そこに若いクマやメスのクマ、親子グマ、が居つき始めたのです」(同前)

なぜ若いクマやメスのクマは奥山を出たのか。

「実はクマにとって最大の敵は、クマです。奥山には大きくて強いオスのクマがいますから、それを避けるために、彼らは里山へと逃げてきたのです」(同前)

こうして若いクマやメスのクマが人間社会に守られるような形で里山に住み着き、人間の生活圏と接触するようになった結果、両者の接近遭遇の機会が増えたのである。

また里山への侵入は、クマたちの気質にも変化をもたらしたという。

「里山にはシカやイノシシ、サルなども侵入していますが、クマがこれらを捕食し、肉食の傾向が強まっている。これまでは、たまたま見つけたシカの死体などを食べているとされていましたが、近年、クマがシカを襲撃している様子なども撮影されています」(同前)

人間との接触の機会が増えることで、とくに若いクマは人間を恐れなくなるという。

「里山では若いクマたちが密に棲息して、互いにエサをめぐり、常に葛藤している状態です。だから人間と接触しても、これをライバルのクマと見立てて攻撃、排除に及ぶ可能性が高い。その意味では、“凶暴化”していると言えるかもしれません」(同前)