バイデンはすでに任務を終えた

バイデン氏は勝利宣言で「分断ではなく結束を目指すことを誓う。赤い州も青い州もない。1つのアメリカのために尽くす」と語ったが、どこか虚しく響いた。アメリカは決して1つではないからだ。

実際、トランプ大統領は選挙に不正があったとして裁判所に選挙無効を訴え、敗者慣例の「敗北宣言」を拒否し続けている。今回の郵便投票は封筒を2重にするなどかなり厳格に運用されていて、トランプ大統領が言い立てるほど不正が簡単にできる仕組みにはなっていない。手作業で再集計していた激戦州でも次々とバイデン氏勝利を確定して、州裁判所もトランプ陣営の訴えを「不正の証拠を示していない」などの理由で退けている。

なぜこうも往生際が悪いのか。大統領職を降りたらさまざまな罪状で訴追の可能性があり、ホワイトハウスから刑務所に直行する初めての大統領になることを恐れているのだ。「本当に負けたら、この国にはいない」などとツイートしているから、ロシア辺りへの亡命を狙っていても不思議ではない。21年1月20日の就任式の前に辞任してペンス副大統領を大統領に昇格させて恩赦を与えてもらうのでは、という説もまことしやかにささやかれている。

法廷闘争で選挙結果がひっくり返る可能性は限りなくゼロに近く、バイデン政権誕生はもはや既定路線だ。敗北宣言は出さずとも、バイデン氏の政権移行準備を連邦政府が協力することを認める意向をトランプ大統領自身もツイッターで発した。しかし、まだトランプ大統領が核のボタンを握っているし、最高司令官として軍の出動命令も出せる。人事権も握っている。だから選挙後にエスパー国防長官を解任した。21年1月20日までに何をしでかすかは予測不能だ。

一方、バイデン陣営は政権移行準備に入っているが、史上最高齢で演説も覚束ない新大統領に対して期待は膨らまない。トランプ大統領を追い落としたことで任務を終えたようなものだが、取り組むべき課題があるとすれば選挙制度の改革である。自由と民主主義のリーダーを自任していながら、その国のリーダーの選び方に大きな欠陥があってみっともない大統領選が繰り返されてきた。世界の物笑いの種である。

勝者総取り方式の選挙人制度では往々にして民意とかけ離れた結果が出る。もっとシンプルにポピュラーボートで決める選挙制度にすべきだし、生体認証を取り入れてスマホやパソコンからでも投票できるように近代的な仕組みに変えていく必要がある。もちろん得票総数で最近民主党に負け続けている共和党は反対するだろうが、逆にそれがもう少し弱者の痛みのわかる党に脱皮するキッカケになればアメリカの分断の治療薬になるだろう。

(構成=小川 剛 写真=時事通信フォト)
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