当初、「二重行政が解消されれば年間4000億円の財源が浮く」と維新は主張していた。しかし数字の裏付けを説明できず、逆に具体的な制度設計を議論する府市の法定協議会から「都構想で節約できる効果額は最大約1億円」との試算が出てくる始末。

一方で大阪市を廃止して4つの特別区を設置するとなると莫大なコストがかかる(その初期コストを推進派は約240億円、反対派は1340億円と試算)。さらに住民投票の終盤になって、「大阪市を4分割した場合、行政コストは年間218億円増える」という市財政局の試算が明らかになった。この試算は、後に松井市長が「捏造」だとして同局は試算を撤回したが、この報道が最後の最後に一押しされたことも、少なからず投票結果に影響を及ぼしただろう。

メリットばかりではなく、都構想が目指しているビジョンというのもよくわからなかった。大阪市を廃し、24の行政区を再編して4つの特別区に合区した後はどうするのか、具体的なビジョンはほとんど示されていないからだ。見方によっては70万人規模のミニ大阪市が4つできるようなものだが、市バスなどの公共交通網でつながっている特別区同士の関係性は不明だ。

大阪府のもう1つの政令指定都市で大阪市に隣接する堺市が都構想に含まれていないのも問題だった。堺市といえば商業や貿易の中継地、交通の要衝として賑わってきた長い歴史がある。人口は約83万人。特別区の人口規模とほぼ同格だ。堺市が参加しない大阪“都”などありえない。大阪市と堺市、2つの政令指定都市が中核を担ってこそ都構想の推進力は高まるのだ。もっとも反対派の前市長から維新公認の市長に代わったとはいえ、都構想に取り込まれることに抵抗のある堺市民は少なくないのだが。

このように考えると、「大阪都」への道程ははるかに遠かった。結局、あらゆることが説明不足で、現状の都構想にはトータルビジョンがないということを大阪の市民に見透かされてしまったのだと思う。

松下幸之助の言葉を思い出せ

橋下徹氏が大阪維新の会を立ち上げるとき、私のところに「『維新』を使わせてほしい」と挨拶しにきたことがある。学生時代から私の本を読み込んでいたという橋下氏は、私が提言してきた道州制や平成維新の活動に対する理解も深く、最初に会ったときから「道州制について話を聞きたい」と切り出してきた。橋下氏が提唱してきた大阪都構想は、もともとは道州制論議から始まったのである。