政府は「GoToキャンペーン」にもっと自信を持つべきだ

菅義偉首相は11月21日の土曜日、新型コロナウイルス感染症対策本部の会合を首相官邸で開き、「GoToキャンペーン」の運用を見直す考えを表明した。

新型コロナウイルス感染症対策分科会を終え、記者会見する尾身茂会長
写真=時事通信フォト
新型コロナウイルス感染症対策分科会を終え、記者会見する尾身茂会長=2020年11月20日、東京都千代田区

感染者の急増を受けての見直しだが、とくに観光支援事業の「GoToトラベル」は首相が官房長官だった今年7月、自ら旗振り役となって「社会・経済活動を再開させる最大のエンジン」として反対派を説得し、実現に漕ぎ付けた。いわば首相への道を切り開いた原動力のひとつである。

キャンペーンは国民の間で人気が高かった。それを見直すという決断は重い。

GoToトラベルは北海道など感染拡大地域を目的地とする旅行の新規予約を一時停止する。対象地域は都道府県知事の判断で決めていく。飲食店支援事業の「GoToイート」については、プレミアム付き食事券の新規発行やポイント利用の一時停止を都道府県に要請する。

分科会は「GoToが感染拡大の要因との根拠はない」と指摘

菅首相が思い入れの強いキャンペーンの見直しを余儀なくされたのは、政府内で「感染者増に国民の不安が広がっている。このまま続ければ『GoTo』が感染拡大の『元凶』との風評が広がりかねない」との懸念の声が出たためだという。野党も予算委員会の集中審議でGoToキャンペーン事業を攻撃材料に挙げている。これも菅首相の見直しを決断させた要因だろう。

しかし、GoToトラベルについては、延べ4000万人以上の利用で判明した感染者はいまのところ176人にとどまっている。感染対策で見直す必要はないとのこれまでの政府の立場は正しかった。

有識者による新型コロナ対策分科会も、トラベル事業の見直しを求めた11月20日の提言の中で「トラベル事業が感染拡大の主要な要因であるとのエビデンスは、いまのところ存在しない」との見方を示している。

「感染者の8割が他者に感染をさせていない」と厚労省

ここで新型コロナとはどんな感染症なのかをあらためて認識すべきだろう。今年3月1日に加藤勝信厚生労働相(当時)が記者会見で「感染者の8割が他者に感染をさせていない」とする見解を公表していたことを思い出してほしてほしい。

このときの発表によれば、政府の専門家会議が国内で発生した事例を詳しく分析した結果、大半の感染者の基本再生産数は「0」か「1未満」だった。換気が悪いなどの3密の環境下(たとえばスポーツジム、屋形船、密閉の仮設テントなど)で一気に感染が拡大し、その結果、「2前後」の基本再生産数になるケースがあった。

感染力は1人の感染者が何人に感染させるかを示す基本再生産数で示される。この数値が1未満だと感染は自然に終息する。厚労省のこの感染力についての見解は、3月1日時点と変わっていない。3密を避けることで感染の拡大は大幅に抑え込むことができる。