現在、日本には約30万人の風俗嬢がいると言われている。社会からの偏見にさらされやすい彼女たちはどのような苦悩を抱えているのか。看護師の木村映里氏は「風俗嬢であるというだけで医療の平等から排除されている現実がある。彼女たちが人として当たり前に尊重される医療を受けられるようにすべきだ」という――。(第1回/全2回)

※本稿は、木村映里『医療の外れで 看護師のわたしが考えたマイノリティと差別のこと』(晶文社)の一部を再編集したものです。

若い女性
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「お前の業界のクソ医者どうなってんだよ!」

「私ね、風俗の仕事大っ嫌いなの。でも誰かに囲われて、鳥籠に入れられて生きるくらいなら、誰に何言われたって今の方がマシ。だからこれからも風俗嬢だよ」

果歩(仮名)は新宿ゴールデン街の、200軒以上の飲み屋がひしめき合う中でも特に奥まった、お酒と煙草の匂いが染みついた小さな店で、そう話しました。新宿のデリバリーヘルスで働く果歩と知り合ったのは私が22歳の時で、当時果歩は20歳でした。

感情の起伏が激しく、よく笑いよく泣く果歩から、知り合って3年以上が経ったある日「お前の業界のクソ医者どうなってんだよ!」と会うなり大声で言われました。

驚いて話を聞くと、在籍している店で月一回の性感染症検査が推奨されているため、3カ月続けて家の近所の同じ産婦人科に行ったところ、「なんでそんなによく来るの?」と訊かれた、との話でした。

今後も通おうと思っていたことから、性風俗で働いていると正直に話したら、その医師に「そんな仕事してる人を診るためにやってるわけじゃないんだよね」と言われた、と。