高知県梼原町の高齢化率は40%以上で世界トップクラスだ。その町で、2002年以降、寿命が延びている。なぜ寿命が延びているのか。その最大のポイントは「室温」を保つことだという。現地を取材したジャーナリストの笹井恵里子氏の著書『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)から、一部を紹介しよう——。
清流四万十川の源流域にある高知県梼原町。人口約4000人の町では自然と人が寄り添いながら生活している=2015年10月7日、高知県梼原町
写真=時事通信フォト
清流四万十川の源流域にある高知県梼原町。人口約4000人の町では自然と人が寄り添いながら生活している=2015年10月7日、高知県梼原町

寒い家に住む人は、脳神経の質が低下する

室温は、脳の若さに影響を与える――。

そう知ったら、とても驚くのではないでしょうか。

慶應義塾大学の伊香賀俊治教授率いる研究チームが40代から80代までの約150人の脳を特殊なMRIで調べると、「寒い家に住む人」は「暖かい家に住む人」と比べて、脳神経の質が低下する傾向にあったのです。

伊香賀教授と、星旦二医師らは、2002年から高知県梼原ゆすはら町で全町民のおよそ3分の1を対象に、「住まいと健康」に関する大規模疫学調査を行ってきました。なぜ梼原町なのかというと、この町では高齢者が40%以上を占め、“日本の2050年の姿”とされているためです。国土交通省は梼原町の調査で得られた成果を、これから高齢化を迎えようとする都市部を含めた全国へ応用したいと考えました。

調査の結果、驚くべき事実が次々と明らかになりました。

「調査を始めた当初より寿命が延びている」

たとえば高血圧発病確率。夜中の0時の時点で居間の室温を18度以上に保てていた人の高血圧発病確率に対して、18度未満の家に住む人は高血圧を6.7倍も発症しやすいという結果でした。発病確率ではなく死亡確率でみると、夜間室温が9度未満の室内環境で生活している人は、9度以上の室内環境で生活している人よりも4年間に循環器疾患で死亡するリスクが4.3倍高くなることがわかりました。これらの研究は年齢や性別、職業、喫煙、飲酒、食事の味付けなどはすべて調整してあります。つまり簡単にいうと「室温」のみで、ここまでの差が出てしまうということです。

高知県と聞くと、南国土佐の暖かいイメージがありますが、梼原町は標高220~1455メートルの急峻な地形で、同じ町内でも気候の差があるものの、全体的には冬場寒くなる町です。その上、高齢化率も世界トップクラスなのですが、町民の健康状態は上向きになっているとのこと。「調査を始めた当初より寿命が延びている。住まいの効果が出てきていると思う」と星旦二医師も補足します。

本書の「はじめに」で、梼原町の方たちが少しずつ「健康的な住宅」を追求していくようになったと書きましたが、いったい何が起きているのでしょうか。

その暮らしぶりを見るために、2019年冬に取材に出かけました。