カレーハウスCoCo壱番屋は値引きをしない。創業者の宗次徳二氏は「業界ではココイチが値引きをしないで発展したのは七不思議の1つだと言われるが、私には安易に値引きをするほうが不思議だ」という――。

※本稿は、宗次徳二『独断 宗次流 商いの基本』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

カレーショップ「カレーハウスCoCo壱番屋」のロゴマーク
写真=時事通信フォト
カレーショップ「カレーハウスCoCo壱番屋」のロゴマーク=2020年4月14日、東京都北区

そこでしか食べられないものを提供しているのに

お客様が求めているのは「満足」することである

現在の飲食業界には安売りをすればもっとお客様を増やせるのではないかと考える人も多いようだ。何より、そうしなければ競合店にお客様を奪われて生き残れないという不安が大きいのだろう。私にはそれが理解できない。

飲食業が提供する商品は買い回り品ではない。ココイチのカレーはココイチでしか食べられない。どこの店でもそこでしか食べられないものを提供しているのだ。それなのになぜ安売りをするのか。業界ではココイチが値引きをしないで発展したのは七不思議の1つだと言われるが、私には安易に値引きをするほうが不思議である。

既存店の売上が前年比割れしたからといって、お値打ちセットメニューを出そう、価格を下げよう、らっきょうを無料提供しようといった検討は、私は一度もしたことがない(ライバル対策ではなく、真にお客様に喜んでほしいとの思いからする場合は別だが)。

楽をして儲けたいタイプのオーナーが「なんとか値下げを考えてください」と言ってくると、私は「掃除をしなさい。一生懸命掃除をしていれば、落ち込み分はカバーできる。心を込めて自分で掃除をしなさい」と言っていた(とはいえ他力本願的なオーナーが掃除をするわけもないのだが……)。

お客様が一番望んでいるのは「満足」であると私は勝手に確信している。居心地のいい空間づくりと心の込もったサービスがお客様の満足へと繋がる。安いから選ぶわけではないのだ。

コストダウンは得るものより失うもののほうが大きい

出血サービスをする前に「心のサービス」を徹底する

もうずいぶん前の話だが、ある飲食チェーン店に明け方に入店すると、1人しかいない店員が客席カウンターに座り、突っ伏して完全に眠りこけていた。肩を揺すって起こすと、なんとか目は覚ましたものの、「いらっしゃいませ」の一言もなく、ふらふらと厨房へ入っていった。私はあきれ果てて、食事をせずに店を出た。店員の行動から経営のだらしなさが見てとれた。

そのチェーン店ではライバル対策の格安商法で売上を伸ばし、利益を維持しようとしていた。価格を下げて利益を得ようと思えば、代わりに何かを削る必要がある。その時にまず削られるのは人件費その他経費、そして仕入れ価格である。

人件費を削る一方で現場の忙しさは倍増する。ミスも出やすくなり、従業員は疲労困憊する。これでは笑顔でお客様をお迎えするどころではない。最低限の日常業務すらおろそかになるのが目に見えている。実際、運営もだらしなくなり、強盗事件が頻繁に起きていた。これでは本末転倒である。

そんな経営をして売上を上げたところで誇れるものは何もないのではないかと私は思う。スタッフやお客様を含め、かかわってくれる皆が喜び合える経営でなければ意義がないとさえ思う。お客様に満足していただくためには、出血サービスよりも心のサービスを高めることのほうがはるかに大事である。