香港の民主化運動が中国の民主化を止めた

【渡瀬】米議会も「香港自治法」を全会一致で可決しましたが、アメリカでは香港の件に関し本気でキレている人と、そうでない人に分かれています。というか、人権に関しては常にキレている一団がいて、かつて中東で民主主義を広げようと戦争していた、いわゆるネオコンの人たち。彼らが今、中東での職を失ってアジアに目を向けたところ、中国という非人権的独裁国家があることに気づいた。この人たちは、香港の件があろうがなかろうが、常に制裁法案を提出し続けています。これまでもウイグルに対する弾圧などで法案を出してきて、ほとんど見向きもされなかったのですが、今回は全会一致で乗っかった、というのが実際のところです。

「アメリカで中国に対する制裁法案が全会一致」というとすごいことのように聞こえます。確かに、香港の金融機関に対して取引を停止させることができるというリーサルウェポンのような一文は入ってはいる。しかし一方で、トランプ大統領が署名した香港自治法には、「これは軍事力を使うことを認可するものではない」という一文も入っているんです。

つまり、人権には何らかの形で言及しつつも、本気で取引停止をしようと思ったら戦争になりかねないので、「そう書いてはあるけれど、本気ではないですよ」とする逃げ道がつくってある。中国に対して、「割と本気だけど、双方が本気でやりあったら返り血を浴びせあうことになるから、そこまではやらないでおこうね」という姿勢を示すものなんです。

【中川】取引停止を実行してしまったら、米中間だけの話では済まない。

【渡瀬】ただし、今回は全会一致ですから、共和党も民主党も賛成しているという点は見ておかなければなりません。つまり仮に大統領選で民主党のバイデンが勝っても、アメリカの対中姿勢は大して変わらない。

【中川】加えて、経済的視点も見落とせません。香港の問題でも、日本では民主化、人権といった切り口でしか語られませんが、香港の経済的位置づけの低下が現状を生んだ面があります。

北京中央は深圳シンセンや長江デルタなどの地位を上げることで、香港の地位を相対的に下げてきました。放っておけば香港はいずれ名実ともに中国の一都市にすぎない存在になり、「香港の中国化」のソフトランディングができると考えていたはずですが、民主活動家の若者たちが出始めて、米議会と連携をとるまでになってきた。これが大陸に影響を及ぼすのは困るので看過できない。だから強硬姿勢にならざるをえなかった。いわば風評リスクを抑えるための損切りです。