▼60代/「脱・知識偏重」で脳と免疫力を鍛える

60代では定年退職組と再雇用組に分かれるが、仕事一辺倒ではなくなる。社会や組織から解き放たれ、価値観が大きく変化するときに、どのように対応すべきなのか――。

【和田式】「知の加工力」の身に付け方

精神科医の和田秀樹氏は「いい年にもなって知識を得るための勉強をするのは愚か」という。

「知識はこれまで勉強してきたもので十分。大切なのは知識を使って推論する、いわば知識の加工力です」

日本はいまだ物知りを崇めるが、和田氏は「恥ずかしい」と切り捨てる。

「有名大学を出た漫才師が、クイズ番組で活躍しているけれど、肝心の漫才は面白くありません。逆に横山やすしさんは中卒で、知識は乏しかったでしょうけど、加工力が抜きんでているから漫才が面白かった」

60歳を過ぎたら知識の量よりも加工力で勝負すべきと和田氏はいうのだ。もちろん加工すべき素材もある程度持っておかねばならない。

「将棋の藤井聡太さんも奨励会に入って膨大な数の棋譜を覚えています。ただし加工力がなければ、いくら知識があっても大成できなかったでしょう」

知の加工力を鍛えるには、定説を疑ったり、他の可能性を考えたりすることの習慣化が必要だと和田氏は主張する。批判的思考や、あることから別のことを発想する頭の使い方が重要だ。

「三浦春馬さんが亡くなられたニュースを見て、『可哀そう』で終わるのでは知識の加工力は高まりません」

和田氏は、三浦さんの飲酒の量が増えていたという報道を受けて、日本では広告の飲酒シーン規制がなかなか進んでいないことにまで発想を広げたという。

和田秀樹が伝授!「脳を育てるニュースの見方」

こうした批判力や連想力を司るのが脳の前頭葉だ。やっかいなことに50歳前後から前頭葉の衰えが始まる。

「同じ著者の本ばかり読むようになったら危険です。思想が右の人は左を、左の人は右の思想の本も読んでみる、といったスタンスが前頭葉の老化を防ぎます。自分とは違う考え方、異論、暴論も含め、全否定せず、この部分は賛同できる、この部分は間違っているのではないか、といった具合に読むと脳への刺激になります」

正解を求める読書から、さまざまな考えを知る読書へ。ここに60歳からあえて勉強する意味がある。つまり思考の幅を広げ、人間の幅を広げる。それは脳の老化も防ぎ、創造性や発想力を高める活動にもなるのだ。