電車などで痴漢に遭った女性のうち、84.1%が警察に通報しなかったという調査結果がある。弁護士の岸本学氏は「警察へ届け出ると5~6時間拘束され、氏名が加害者に伝わる場合もある。こうした負担が被害者を救済する妨げになっている」と指摘する——。
暗い部屋で座り込む、落ち込んだ女性
写真=iStock.com/spukkato
※写真はイメージです

被害女性の50%が我慢している

新型コロナ禍により一時減少したものの、再度息を吹き返しているものに、満員電車等での「痴漢」がある。

「痴漢」について、東京都迷惑防止条例では「公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること」が禁止され(5条1項1号)、違反したものは、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処される(8条1項2号)。他の自治体でも同様の条例がある。痴漢被害の程度が甚だしい場合、犯人は刑法上の強制わいせつ罪に問われ、6月以上10年以下の懲役が科される(176条)。

このように明確に「痴漢」行為は法律で禁止され、処罰対象とされている。

ところが、被害を受けた女性が、警察へ届け出る割合はとても少ない。

2019年1月に#WeToo Japanが公表した「公共空間におけるハラスメント行為の実態調査」によれば、過去に交通機関や路上などで「自分の体を触られる」被害を受けたことがある女性は47.9%にのぼる。多くの女性が過去に痴漢の被害を受けた経験を持つことがうかがえる。

痴漢への対処については、「犯人を捕まえた」は4.6%、「駅員に通報した」は5.9%、「警察に通報した」は4.1%にとどまる。それに対し「我慢した」が50.5%、「その場から逃げた」が33.6%と、両者をあわせると84.1%になる。

つまり、法律や条例で痴漢行為が禁止され処罰の対象とされているにもかかわらず、大半のケースでその運用がなされていないのが実態なのだ。