どんな苦難もずっと続くことはない

そして最後に、すべては諸行無常と心得てごらんになってはいかがでしょうか。「苦あれば、楽あり」との言葉にもあるように、どんな苦難もずっと続くことはありません。流れゆくそれぞれの出来事を学びの機ととらえ、成長の原動力ととらえるのです。

ところで、中高年となり人生の後半戦に突入ともなれば、ご相談者のように、「人生はもう先がない」と、諦めや失望に打ちひしがれる方も少なくありません。私は、看護師・僧侶として、余命いくばくもない方のお話を数多く聴かせていただいておりますが、残された時間が少ないと知ると、「何のために生きてきたんだ」「もう生きていても仕方がない」など、元気な頃の生活では見ることのなかった心の奥底のお気持ちを吐露される方が多くいらっしゃいます。最近は、「後悔なく死ぬにはどうしたらいいか」というご質問も多くいただくようになりました。

もちろん正解などありはしませんが、「後悔なく生きた“今日”の積み重ねが、後悔のない“死”をつくるのではないでしょうか」とお答えするようにしております。後悔なく今日を生きるためにも、原点に戻って生まれてきたことや世の中に対する感謝の念を思い出していただきたいのです。心穏やかにお過ごしになれば、いままで気づかなかったものの価値が見えてくるかもしれません。実際に、がん患者さんの中には、余命を告知されてから、「当たり前の風景が愛おしく、輝いて見えるようになった」とおっしゃる方もいらっしゃいました。

お釈迦さまは、そういった人間の底力を深く信じていらっしゃったのではないかと思っています。というのも、お釈迦さまの教えである「ダルマ=不変の理」は、生き方や考え方を押し付けるものではなく、「このやり方を、自分で試してごらんなさい」というものだからです。

お釈迦さまの入滅の前、弟子が「あなた様がこの世にいなくなってしまったら、これから何を頼りに生きていけばいいのですか」と問いかけたところ、お釈迦さまは、「自らを灯火とし、自らを拠り所にしなさい。法の教えを灯火とし、法を拠り所にしなさい」とおっしゃいました(「自灯明法灯明」)。

このように、仏教の教えでは、自らの心の持ちようをコントロールし、自分と向き合い心を修めていくことが要となります。幸福になるのも、不幸になるのも、自分次第というわけです。

あなた様の明日が明るい灯火に照らされますよう、心からお祈りさせていただきます。

(構成=野澤正毅 撮影=石橋素幸)
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