「自分だけ儲かって申し訳ない」。「日経MJ」で中小企業の経営コラムを連載している竹内謙礼氏は、最近そうした理由で取材を断られることが増えているという。竹内氏は「うしろめたさを感じてしまう心情は非常に理解できる。しかし行き詰まった雰囲気を打開するには、このままではいけない」という——。
緊急事態宣言下で、シャッターに一時閉鎖のお知らせを貼る店舗(東京・新宿)
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「儲かっている話」が世に出てこない

「日経MJ」という流通業界専門の新聞でコラムを8年間連載している。

タイトルは「竹内謙礼の顧客をキャッチ」。全国の中小企業を毎週1社取り上げて、儲けの秘訣を取材し、それを原稿にまとめている。企業の選定から始まり、取材の申し込み、写真撮影、執筆、担当記者との内容確認、掲載紙の送付等、仕事は思いのほかハードだ。

しかし、それでも連載が続けられているのは、少しでも多くの人に、儲けのノウハウを伝えたいという使命感があるからである。今まで延べ400社近い企業を回り、日本で一番中小企業を取材した経営コンサルタントという自負もある。特にコロナ禍になってからは、できるだけ多くの企業に儲けの秘策を情報発信したいという思いで、今まで以上に必死になって取材を行っている。

しかし、ここ最近、取材のオファーを断られるケースが増えている。

断られる理由で一番多いのが「自分だけ儲かって申し訳ない」という経営者のうしろめたさである。宿泊業や飲食業は新型コロナウイルスの影響で大きな打撃を受けている。そのような中で、自分だけ「儲かってます」とは、心情的に言いにくい。先行きが見えない中で、多くの経営者がもがき苦しんでいる中、自分だけ儲かっているといううしろめたさを感じてしまう心情は非常に理解できる。

もちろん、取材を断る理由として「儲けのノウハウを人に教えたくない」という事情もあるかもしれない。そもそも儲け話は人に言いたがらないのが常であり、コロナ禍前から取材先の選定には苦労するところはあった。

だが、ここ最近は、さらに取材を拒まれる傾向が強くなり、以前よりも儲かっている話が世の中に出づらくなっている気がする。

「儲かって申し訳ない」雰囲気を変えたい

「儲かって申し訳ない」という後ろめたさを強く感じる風潮は、テレビの影響が大きい。連日、ニュースで疲弊する繁華街の映像が流されて、インタビューではネガティブな街の人の声ばかりが飛び交う。このような放送を毎日のように見せられてしまうと、気持ちがめいってしまう。商売がうまくいっている人でも、余計に「申し訳ない」という気持ちが強くなって、口を閉ざしてしまう。

しかし、このままでは、いつまでたっても情勢は変わらない。景気を急回復させるためには、「儲かって申し訳ない」という雰囲気を大きく変えていく必要がある。メディアは苦しんでいる企業だけではなく、コロナ禍でも儲かっている企業にもフォーカスして、まだまだ中小企業には底力があることを伝えてもらいたい。そして、取材された経営者も胸を張って「儲かっています!」と言えるような、ポジティブな社会に変換していかなければ、日本の中小企業は元気を取り戻すことはできない。