アシモフはSFだけでなく、あらゆるジャンルで膨大な作品を残した。『黒後家蜘蛛の会』シリーズをはじめとする推理小説や、自然科学全般や歴史などを扱ったノンフィクションの解説書や啓蒙書、聖書の入門書、さらには何度かにわたり自伝も執筆している。
結果として生涯に残した本の数は500冊以上になるとされる。まさに、万能の天才、ルネサンスの教養人のような存在だった。
大きなインスピレーションを与えてくれる先人
アシモフは、現代における私たちの生き方を考えるうえでも、大きなインスピレーションを与えてくれる先人なのではないか。
私は、中学生の頃から、アメリカの雑誌「リーダーズ・ダイジェスト」を最初は日本語版、後に英語版で読んでいたが、ある号にアイザック・アシモフの記事があった。さまざまなことが書いてあったが、1つ強烈に覚えているのが「私は自分の思いついた重要なアイデアのすべてを本にしてきた」という趣旨のアシモフの言葉である。
確かに、彼が書いた本の多彩さを思えば、その言葉を信じることができる。同時に、そのような姿勢で生きることは、現代の私たちにとっての1つの理想になるのではないだろうか。
今日の生活は複雑化している。「食」や「情報」、「地域」のコミュニティーから「地球」規模の問題に至るまで、一日の中でさまざまなことに出合い、小さな「ひらめき」を持つことがある。
そのほとんどを、私たちは突き詰めることなく通り過ぎてしまう。もし、そのうちのいくつかだけでも形になるまで粘り強く追いかけたら、どれだけ仕事や生活が豊かになることだろう。
アシモフはもちろん特別な存在だが、その生き方から小さなヒントを得ることもできる。
「思いついた重要なアイデア」の「すべて」とまでは言わなくても、「一部分」でも実現する人生に、少しでも近づきたいものである。