テクノロジーという「質」で勝負
このプログラム本来の目的は、安全保障にある。日本と異なり政情が不安定な中東では、安全保障は常に国と国民にとって最大のプライオリティである。国土の大きさ、人口、兵力という「量」では、敵対するアラブ諸国に圧倒的に劣るイスラエルは、テクノロジーという「質」で勝負するために、エリート技術者を育成し、兵役として軍事技術開発に従事させる。
このエリートたちは、その期待された目的を果たすだけではなく、兵役を終えた後に、その優れた技術力とチームワークを生かしてベンチャーを次々に立ち上げ、この国の飛躍的な経済成長のドライバーとなってきたのである。
日本でも起業家育成に向けて、投資プログラム、ピッチコンテスト等様々な国の施策がなされるようになった。これら「表に見えるもの」はわかりやすい。しかし、その中で活躍すべき人間の意識が変わってゆかねば、成果を出すことは難しい。イスラエルの起業家バラク・ベン・エリエゼルは、「腕から血を流していれば誰でも怪我だとわかるが、内出血はわかりにくい」と言う。
教育の問題は、まさにこの「わかりにくい内出血」なのである。日本の停滞の一因は、高度経済成長期とほとんど変わらぬ教育を施し続けているという「内出血」にあるのではないか。本書を通し、日本の読者が現状から脱皮するための道筋を、ぜひイスラエルから学んでもらうことを希求するものである。