仕事にも人生にも法則がある

彼の著書『「成功」と「失敗」の法則』(致知出版)には、「仕事にも人生にも法則がある。その法則にのっとった人間は成功し外れた人間は失敗する」と書かれています。

鹿児島大学を卒業し、京都の松風工業に入社。会社のひどい経営状況に、同期5人で「こんな会社早く辞めよう」と言っていたという。
鹿児島大学を卒業し、京都の松風工業に入社。会社のひどい経営状況に、同期5人で「こんな会社早く辞めよう」と言っていたという。

昨今の新型コロナウイルスの流行で、社会は大きく変わりました。突然それまでのやり方が通用しなくなり、多くの人がどこに向かったらいいのか途方に暮れています。そんなとき、人間を熟知した稲盛氏の言葉は、航路を示す灯台の役割を果たしてくれるはずです。

稲盛氏は新卒で入社した松風工業で、20代にしてセラミックスを扱う特磁課の実質的なリーダーとなります。そのころから経営者の視点で仕事に取り組んでいた彼は、取引先の実力者から「若いのにあなたはフィロソフィ(哲学)を持っている」と絶賛され、それ以後自分の経営哲学を、「フィロソフィ」にまとめるようになったそうです。

まさに言葉は神なり。稲盛氏のフィロソフィにある文言にはどれも、人を動かす力強さが宿っています。そのフィロソフィの中で、コロナ後の社会に立ち向かおうという今、もっとも心に留めておきたいのが「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」です。

なんといっても強い熱意がなければ、何ごとも成すことはできません。稲盛氏はこれを「燃える闘魂」と表現しています。製品開発で行き詰まった部下に対して「製品の語りかける声に耳を澄ませ」と叱りつけたという逸話もあるほどですから、ものづくりへの熱意はすさまじいものだったのでしょう。

1997年、65歳のときに在家得度を受け仏門へ。2005年からは山陰、四国、信州、東北などを回り、托鉢を行った。
1997年、65歳のときに在家得度を受け仏門へ。2005年からは山陰、四国、信州、東北などを回り、托鉢を行った。(読売新聞、AFLO=写真)

しかし、どんなに熱意があってもマイナスの発想法をしていたら、大きなマイナスの力を生むだけです。ゆえに考え方が正しい方角を向いているかに注意する必要があります。そこで常に「動機善なりや、私心なかりしか」と自問自答を繰り返したと言います。第二電電(現KDDI)の創業やJAL再生といった重要な局面でも、社員たちにもその自問自答をさせました。

なぜ私心ではだめなのか。自分の利益が第一だと、一時的に儲けることはできても、儲け続けることはできないからです。目的が社会のためでなければ、長期的に成功することはできないのです。

「『私たちは今後どうなりますんや』と部下に聞かれたら『我々はこうなるんだ』と間髪入れずに答えられるようでなければ経営者失格である」とインタビューのとき話してくれました。私心がなく世の中のためになることをやっているなら、自信を持って答えられるはずだと、彼は言っているのです。いまの時代、経営者はもちろん、多くの働く人も胸に手を当てて自らに問い直すチャンスかもしれません。