事実安倍政権になってから、企業の数は減っているにもかかわらず、雇用は371万人も増えています。少し古い中小企業庁のデータになりますが、12年から16年にかけて企業数が27.5万社減っているのに、就業者数は185万人も増加しています。

まだ信じられませんか。

では、海外の事例を紹介しましょう。イギリスには最低賃金制度がない時期がありました。復活したのは1999年で、25歳以上の最低賃金は3.6ポンドでした。それから19年経った18年、最低賃金は7.83ポンドまで引き上げられました。復活時と比べて約2.2倍まで上がっています。

一方、失業率はどうなったか。18年6月の失業率は、4.0%でした。日本に比べると高く見えますが、イギリスの1971~2018年の失業率の平均は7.04%。それを大きく下回る水準で、75年以降ではもっとも低かった。最低賃金の引き上げで、失業率は悪化するどころか改善しているのです。

ただし、最低賃金の引き上げ方によっては雇用に悪影響を与えるおそれもあります。最低賃金引き上げ反対派がよく挙げるのは、韓国のケースです。韓国は18年1月に最低賃金を一気に16.4%引き上げました。その結果、失業者が増えてしまった。

もともと韓国は最低賃金が極端に低いわけではありませんでした。そこからさらに一気に16.4%アップというのは、さすがに極端すぎました。アメリカ経済を分析した論文では、最低賃金の引き上げ率は15%がベストで、それ以上になると悪影響が出始めるという分析が示されました。もともとの水準が各国で異なるため数字をそのまま適用できませんが、上げすぎると弊害があるのは本当のようです。

日本は現在、年率3%程度の引き上げ率です。この水準で雇用に悪影響が出ることはありません。現実に最低賃金は上昇しながら就業者数は増えていて、むしろ雇用を増やす効果が認められます。生産性を高めるためには、もっと高くてもいい。私は年率5%で引き上げてもまったく問題がないと見ています。

中小企業の半数は消えていい

繰り返しますが、最低賃金が上がることによって、淘汰される小規模企業が出てくるでしょう。しかし、それは日本の生産性を高めるために避けて通れないプロセスです。

日本の企業数は現在、約360万社です。人口に対してこの企業数は明らかに多すぎます。企業規模と生産性は強い相関があるので、日本は1社当たりの従業員数がもっと多くなるように、企業の数を減らさなくてはいけません。

具体的には、いまの半分以下でいい。2060年、日本の人口は9000万人を割り込んでいます。将来もいまと同じ水準の社会保障を維持する前提に立てば、60年時点に必要なGDPと生産性が算出できます。さらにそこから回帰分析によって必要な企業規模を導き、生産人口をそれで割ると、160万~180万社という数字になる。それが将来の日本の適正な企業数です。

もっとも、人口が減れば企業の数は勝手に減っていきます。理由は簡単です。かつてはごく一部のエリートしか入れなかった一流企業も、いまは比較的入社しやすくなっています。そうすると準一流企業の席が空いて、いままでなら二流企業に勤めていた人がそこに座れるようになります。こうやって上から席が埋まるので、下位に位置する中小企業は人がいなくなって、自然消滅します。

問題は、消えゆく運命にある中小企業を延命させようと抗うのか、うまく退場できるように導くのかです。最低賃金の引き上げは、まさしく後者の施策です。きちんと対応できる中小企業は規模を拡大して生産性を高め、そうでない企業は統廃合されて消えていく。その流れを加速させるために、最低賃金はいま以上に大きく引き上げるべきなのです。

(構成=村上 敬、篠原克周 撮影=相澤 正、加々美義人 図版作成=大橋昭一)
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