押し入れの持ち物に「自分」がいる

僕には、子どものころから切望しながらも、果たせなかった夢があります。それは、父親と一緒にキャンプに行き、飯盒で米を炊いて、焼いたイワシの丸干しをおかずにご飯を食べることです。しかし、10歳のときに父を亡くしたので、この夢を叶えられませんでした。

それでも、これをやってみたかったと思うことが、今ですらしばしばあります。飯盒と丸干しの食事など粗末なものです。けれど、もしそれが実現していたら、父とのキャンプは、幸福な一場面としてその後の僕の人生に残ったでしょう。

生活の価値は、世間が決めるものではなく、自分が決めるものだと思います。40代以降で実入りが少なく、生活が少々苦しくても、日々に感じる幸福があるなら、それこそが価値といえるのだと思います。

社会は大きく変わるといわれてきました。そうした予測が、今回の新型コロナの世界的なまん延で、現実のものになるかもしれません。だとすれば、この騒動によって年齢や年収にかかわらず、皆が新たな出発点に立たされたと思ってもいいのではないでしょうか。

例えば、大きな会社に勤めていれば一生安泰だとか、年功序列だとか、これまでの通念めいたものが一切当てにならない社会に変わったら、自分はどう生きるのか。今が、それを考えてみる好機なのかもしれません。

難しい話ではないのです。緊急事態宣言もあって、在宅勤務を継続している方も多いと思います。仕事の合間に押し入れや納戸にしまい込んである自分の持ち物を整理してみてはいかがでしょう。「なぜ、こんなのを」というものも出てくるでしょう。しかし、とって置いたのには必ず理由があり、そこに「自分」がいます。実入りの少ない生活から抜け出すヒント、今いる出発点から新たな行動や生活観を考える種が、そこから見出せるかもしれません。

そのときに大切にしてほしいのが、役に立つかどうかではなく、先述した「自分が楽しいと思うこと」「自分に幸福を与えてくれるもの」は何か、という尺度なのです。

(構成=高橋盛男 撮影=小倉和徳)
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