人間には「見たものをすぐ信じてしまう」という性質がある
この「システム2」が機能しにくくなる状況がいくつかあります。たとえば、時間がなくて焦っているときや、疲れているときです。「システム2」を作動させるのに必要な時間やエネルギーが足りず、判断を「システム1」に任せてしまうのです。他人の行動を見たときも、それに同調すればいいという考えが生まれ、働きにくくなります。
また、人間には「見たものをすぐ信じてしまう」という性質があります。目の前の棚がガラガラなら、「奥に在庫があるかもしれない」などとは考えず、「もう存在しないのだ」と早合点してしまう。こうした条件が揃ったことで、「トイレットペーパーの供給は足りているはず」と理解しているにもかかわらず、うかつに買い占めに走ってしまったのかもしれません。
どうすれば、こうした行動を抑止できるのでしょうか。それは目の前の光景だけにとらわれず、行政が発表しているような数字や統計を確認することです。また少し時間を置いて判断する習慣を身につけることも大事。感情は短い間に消えていきます。一呼吸して「システム2」が作動してから、判断を下しても遅くないでしょう。
今回の買い占めは、メディアの影響も強いように感じました。ニュースで流れた空っぽの棚や行列の映像を見て、あわてて買い占めに加担した人も少なくないはずです。メディアには消費者の不安をあおるより、「これだけ在庫がある」というような情報を多く提供してもらいたい。冷静に判断できる材料が揃えば、ムダな買い占めは減り、必要な人にちゃんと行き渡る可能性も高まるはずです。
(構成=鈴木 工)