ウイルスという脅威が、私たちに「何もしない」時間と空間を与えた
前著『「無知」の技法』で、世界のリーダーたちへ「知らない」というネガティブな状態を受容するアプローチを紹介した2人の著者は、本書のチャプター2「『しなければ』という執着」でこう指摘する。
〈とにかく行動する(ジャスト・ドゥ・イット)ことを奨励されている私たちは、有能な人物の証として、知恵よりも行動に重きを置きやすい。行動をしていれば、何かがなされているという感覚が得られる。すると自分自身も、周囲の人々も、解決策に向かって進歩しているという根拠のない安心を抱く。だが、時には、目の前の複雑な課題に対する最善の対応は「行動を急がないこと」かもしれない。(中略)不確実な状況に不安を抱くと、人は最も一般的な防御反応として、急いで行動を起こそうとする〉(82~83ページ)
その通り、私たちはあまりにも様々なことをしすぎてきた。自由な時間がまるで罪であるかのように。
今回のパンデミックで、ウイルスという脅威的な存在は結果的に人間社会へ何もしない時間と空間を与えた。「何もしないことが結果的に世界を救うのだから、とにかく家にいよう」という実に新鮮な現実を前に、恐る恐る私たちは自分を許す。
現実のエピソードや文学作品の引用をふんだんに盛り込んだタイムリーな一冊。少々大らかに括った東洋思想に習おうとする欧米知識層らしい東洋観にはいったん優しい視線を持とうと決めておいて、「無為」の技法を味わってほしい。