損害賠償請求できる可能性
「仮に報道が事実なら、乗客は罹患していなくても、同船を運航する法人に対し損害賠償請求できる可能性は十分あります」
そう解説するのは、城南中央法律事務所の野澤隆弁護士だ。
野澤弁護士によると、船を運航する法人は高度な注意義務を負担している。いわゆる“場屋営業者の責任”をどう解釈するかが問題になるという。
「場屋営業者(旅館や飲食店などの営業者)は、客を迎え入れている関係上、保管物などにつき重い責任を各種法令で負担させられています。たとえば、旅館が客から預かった荷物を紛失したら賠償責任を完全に逃れることは、レアケースを除けば、困難です。そんななか、このクルーズ船は、高額料金で乗客の一定期間の生活をほぼ丸ごと囲い込む業務形態ですので、短期間の小さな過失であってもかなりの賠償が認められる可能性があります。
今回の件が裁判になった場合には初期段階における運営体制の不備のほか、『事実上、移動の自由が一定期間なく、しかも感染するかもしれない』といった慰謝料の要素をいかに金額評価するかが大きな争点となります」
しかしクルーズの運航法人は代金の全額返金などを発表している。ただ野澤弁護士は「仮に“これ以上クルーズ会社に対して追加のお金を請求しない”ことを乗客が了承したうえでお金をもらっていたら、法人との更なる交渉は厄介にはなってきますが、基本的にはそれとは別で慰謝料を請求できるはずです」と説明する。
では乗客は実際、どれくらい受け取れるのだろうか。
「新型コロナに罹患した乗客は500万~700万円を基本的な慰謝料として法人に請求することになると考えます。ただ最終的な判決や和解で勝ち取れる額はかなりの減額が考えられます。罹患していなくても、『事実上の拘束下で恐怖感が相当期間与え続けられた』ことなどを根拠に200万~300万円程度を請求し、最終的にとれるのは100万~150万円くらいで手を打つというのが現実的かもしれません。もし、お亡くなりになった場合の慰謝料は2000万~4000万円程度が請求相場になります」
ただクルーズ船は横浜に着いてからは、日本政府の指示により事実上運営されていた。政府に対しては責任を問えないのだろうか。
「難しいでしょう。新型コロナについては各国政府がかなり対応したが結局世界中に蔓延した状況を考慮すれば、法的な責任を認めるほどの過失を日本の政府はおかしていない。少なくとも行政府に対する裁判所のチェック機能が弱い日本で認められる可能性は低いのが現実です」
ダイヤ問題の第2ラウンドが始まる。