外圧があって初めて流行を認めた中国政府

――なぜここまで感染が広がっているのでしょうか

西浦 正直に言って、SARSを経験した中国は感染症対策についての情報公開が進んでいると思っていただけに、実際の罹患者よりも診断される人数が少ない「診断バイアス」が、ここまで強くかかっていたことにはショックを隠せませんでした。海外の研究チームが外圧的に推定して患者数を推計するようになるまで、中国政府は武漢で流行が起こっていることを認めませんでしたから。

中国の情報公開制度が劣悪かというと、そういうことでは全くないんです。中国の保健省の機関である「中国疾病管理予防センター」(China CDC)の研究能力はSARSの時と比べて格段に飛躍しています。今回も、速やかにWHO(世界保健機関)とデータを共有できています。

ただ、原因不明の肺炎が発見された時に、おそらく武漢ローカルのレベルで、勝手に上層部に報告を上げない文化や政治的な思惑があって、事実が明るみに出るのが遅くなってしまった。そして、新型肺炎という診断が遅れた。これは不幸の連鎖でした。その間にも、感染初期の感染拡大は起こってしまっていたのです。そこは大変残念だったなと思います。

感染者を追跡すれば、流行を止められる

――日本にいる私たちがすべきことは何でしょうか。日本でも、武漢のような大流行が起こりうるのでしょうか?

西浦 東京など都心部に住んでいると、パンデミックが起こるのではないか、と不安になる方もいるでしょう。しかし、感染症は人が多いからと言って伝播が進みやすい訳ではありません。感染するかどうかは、当然ながら感染源に出合うか否かで決まりますが、例えばSARSにしても、感染者が人混みに出ることで感染が拡大したわけではない。感染者との長時間の濃密な接触をした結果、感染するケースが多かったのです。

新型コロナウイルスは、二次感染が起きて伝播が広がるサイクルが平均で7日くらいとされています。インフルエンザは3日くらいです。この期間の違いで何が変わるかというと、感染者と接触のあった人を追跡して、二次感染を防ぐことができるかどうかです。

インフルエンザはサイクルが早すぎて二次感染を予防するのが非常に難しい。新型コロナウイルスは、サイクルが長い分、追跡ができる可能性があります。SARSの流行がなぜ止まったかというと、やはり伝播するサイクルが長く、「感染者を見つけて隔離をする」、そして「接触者を追跡して行動制限をする」という対策が上手く取れたから。感染の性質上、いわゆる「封じ込め」が可能だったということです。

日本でも続々と感染者が発表されていますが、対岸で感染者が爆発的に増えている状況下では渡航が完全に止まらない限り、これはいつか必ず起こることでした。あとは流行を最小限に留められるか否かです。

都市部に住む人も、マスクをつけて、人との濃密な接触を防ぐことに気をつけていれば過度に心配する必要はありません。今後明らかにされていく情報にアンテナを伸ばしていて下さい。

オリジナルサイトで読む
文春オンライン