性風俗の世界で、「ニューハーフ風俗」という言葉が注目を集めている。元男性や女装した男性が、男性客を性的サービスでもてなす業態だ。性社会・文化史研究者の三橋順子氏は、「ニューハーフ風俗はこの20年で控えめにみても10倍に急増している。しかもペニスのサイズを誇る『男らしい』風俗嬢が増えている」という——。

そもそも「ニューハーフ」とは何か

2019年10月6日に鹿児島市で開催された第39回日本性科学会・学術集会のシンポジウム「セックスワーク:論じられてこなかった視点とはなにか」(モデレーター:東優子大阪府立大学教授)で、とても興味深い報告があった。

所蔵=山種美術館
鈴木春信「色子の送り」(18世紀)。江戸時代、セックスワーク専門の少年を「色子」といった。付き添いの男とともに、仕事先に向かう色子の姿は、当時の娘と変わらない。

それは、畑野とまとさん(ライター/トランスジェンダー活動家)の「セックスワークの世界からみるトランスジェンダーの性」と題する調査報告で、近年の「ニューハーフ風俗」世界の変化を捉えたものだった。

ただ、会場の聴衆の反応は、そこに集まっていたのがセクソロジー(性科学)に関心がある方であるにもかかわらず、「ニューハーフ風俗? それなに?」という感じで、冷淡ではあったが。

今、この文章を読んでくださる多くの方の知識も、似たようなものかもしれない。そこで、まず、用語を簡単に説明しておこう。「ニューハーフ」とは、元男性、あるいは女装した男性であることをセールスポイントにして営業している人の呼称で、1981年に生まれた和製英語(語源は桑田佳祐)である。

その業種は、主に3つに分けられる。ショービジネス(ダンサー)、飲食接客業(ホステス)、そして性的サービス業(セックスワーカー)で、私は「ニューハーフ3業種」と呼んでいるが、「ニューハーフ風俗」は、その3番目に相当する。

ちなみに「セックスワーク」とは、性的サービスを提供してその代価を得ることを「労働」の一種とみなす考え方で、1990年代に日本に入ってきた。