出張の8割は必要ない

家庭での役割を果たすためには、諦めなくてはならないこともあります。たとえば6時に帰って夕飯を作らなくてはいけない日に、上司や同僚から「ちょっと飲もう」と誘われた場合、断らないと家庭での信頼が失われます。

私は、子どもができてからやめたことが3つあります。急な飲み会と国内出張、海外で開かれる学会の3つです。どれも男性にとっては仕事や出世のために必要に思われそうです。もちろん、直接行く必要があるときは断りません。自分が演壇で話す場合や、自ら交渉する必要がある案件であれば出張します。

でも、不要な出張のほうが圧倒的に多いと思います。世のサラリーマンが出張してSNSに上げているのは、「今晩、札幌でジンギスカンを食ってます」とか「博多の夜は水炊きを楽しんでます」とか、食いもの自慢が大半です。本当に必要な出張は、どのくらいあるのでしょうか?

会社や業種にもよるかもしれませんが、わたしは「8割の出張」は必要ない、というのが持論です。スカイプで十分。これはわたしの経験上、出てきた数字です。とりわけ「視察」と名のついた出張は99%不要ではないでしょうか。今の時代、視察で分かることのほとんどはネットで調べられるからです。

私が出張を減らすきっかけになったのは結婚し、とくに子どもが生まれてからですが、それ以前から出張はムダだと感じていました。

“お父さん不要歴”が長いと、巻き返しが困難

まだ子育て期なら家庭に役割や居場所を作るのはそれほど難しくないでしょう。でも、すでに子どもが成人してしまっているような家庭だと、お父さん不要歴が長く、それで安定した家庭になっているので、今から居場所を作るのはハードルが高いと思います。

しかし、仕事人生も健康寿命も伸びています。今、寿命の最頻値が男性で87歳、女性で93歳です。これだけ長く生きることを考えると、何かしら家庭や地域に貢献したり、役割を持ったりすることは欠かせません。男性も女性も、仕事だけでは生きていけないのです。はやく、家庭や地域のなかに「役割」をつくることが、豊かな老後につながるのではないでしょうか。考えているよりも、人生は、ずっと長いのです。

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