母乳はアダルトコンテンツか

しかし、Bonyu.labのニュースがインターネットに出たとき、文字通り“炎上”した。「乳児を持つ世の中のお母さんたちに、プレッシャーをかけるつもりか!」と。不思議なことに、当事者の母親ではなく、若い世代の男性からの“口撃”が多かった。

「日本では、母乳や授乳をテーマにあげると、『おっぱいが出ないお母さんが可哀想』という感情論派か、『何がなんでも母乳育児が一番!』という妄信的な母乳礼賛派に分かれがち。科学的で冷静な議論がされにくいのです。母乳が赤ちゃんにいいことはわかっているけれど、なぜいいのか? そのメカニズムがちゃんと解明されていないし、研究もそれほどされていない。さらには、Bonyu.labの広告をアダルトコンテンツだと判断され、あるメディアに掲載を拒否されたこともあります。拒否の理由は『ヌードを掲載すると不快に感じる人もいるから』ということでしたが、全くナンセンス! こういう風潮が、正しい議論や研究をはばむ結果につながると思うと残念。私たちは決して母乳だけが正義とは思っていません。Bonyu.labの活動がきっかけとなって、研究者や企業の方々が、母乳にもっと前向きに取り組んでくれるのが目的なのです」

妊娠中の食生活の見直しにも

荻野さん自身、自分の食べたものが原因で、母乳を飲んだ娘に湿疹ができた経験がある。だから、母乳の質や量に満足がいかないのであれば、粉ミルクなどが代替食になるのもアリだと考えている。しかし、母乳が出ないことで、母親が自分自身を責め、周囲から責められるのは不条理だ。

「100人の母乳があれば、100通りの成分の結果がでます。それぐらい個人差があるもの。これからもっと母乳の検査サービスを受けてもらいながら、出産後はもちろん、妊娠中のより良い食生活などについても専門家の方々の研究を後押ししたいと思っています。人間は、病気をするか妊娠・出産をするか、それぐらいのライフイベントが起こらない限り、自分の食生活を改めることがなかなかできない。妊娠・出産時は、自分の日頃の“食”と、子ども=次世代の食に向き合う大きなチャンスなのです」

8月1日はおっぱいの日

8月第1週は、国連が母乳育児を推進する「世界母乳育児週間」であり、8月1日は「世界母乳の日」と定められている。Bonyu.labでは、その日を「#おっぱいの日」と銘打って、大手広告代理店と共同でイベントを開催する。母乳をよく知ってもらうためのカンファレンスなど、さまざまなイベントを仕掛ける予定だ。今秋には、母乳の成分分析の結果をもとに、地方の国立大学と連名で学会に論文を発表するプランもある。

荻野さんは常に前のめりでさまざまな事業に打ち込んでいるが、活動の根底にあるのは、「次世代に残したい、心豊かな食生活」。そのスピリットにブレはない。

荻野みどり(おぎの・みどり)
ブラウンシュガーファースト社長、Bonyu.lab社長
1982年、福岡県生まれ。3つの大学での学生生活、さまざまな職業を経験した後、2011年長女を出産。その4カ月後にブラウンシュガーファーストを立ち上げ、ココナッツオイルブームを牽引する。18年にBonyu.labを設立。

文=東野りか