男性が育休をとらない理由

以上をふまえれば、父親が育休を取るべき理由は分かっていただけたのではないかと思いますが、義務化の実現による弊害はないのでしょうか。結論から言えば、僕はそう簡単にうまくはいかないと思っています。

育休制度ができてから、女性の働き方には変化がありました。育休をとる女性は8割以上に増え、復職後に時短勤務や自宅勤務をしながら子育てと両立する人も多くなっています。しかし、男性の働き方はほとんど変わっていません。育休制度は男女問わず利用できるはずなのに、最新のデータでも男性の取得率は今なお6%程度。子育て中に時短・自宅勤務を選ぶ人もごくわずかです。一体なぜでしょう。その一因は、「夫婦のうち収入が低い人が休んだほうがおトクだから」です。

育休中の給付金は賃金の67%(6カ月経過後は50%)。家計へのダメージを少しでも抑えようと思ったら、収入が低い女性が育休を取ったほうがおトクになってしまいます。ちなみに給付金は非課税で、受給中は社会保険料を納付する必要もないので手元には67%よりは多く残ります。現状ではまだ、夫より妻が、収入が低い夫婦が圧倒的に多いのです。フルタイムでさえ賃金格差はおよそ10対7。これを解消しないまま経済的大黒柱である男性の育休を義務化すれば、貯蓄ゼロ世帯も少なくない中で、多くの家庭が家計面でダメージを受けるでしょう。

収入格差と性別分業意識の解消を

もう一つ、男性の働き方が変わらないのは「男は仕事、女は家庭」という意識が根強く残っているせいでもあります。多くの男性はいまだに、女性も責任感を持って仕事をしていることに気づいていません。逆に、女性の中にも「男なんだから稼いで当たり前」と考える人が一定数いますね。男性の育休義務化は、収入格差と性別分業意識、この2つの課題解決とセットで進めないと、ただ義務化しただけで終わってしまう気がします。

もっと思い切った施策が必要

ここまで読んで、「じゃああなたは義務化に反対なのか」と思われた人もいるかもしれませんが、そうではありません。ただし、それは日本が目指すべき姿としての話。現実的には、先ほどの課題を解決しない限り、義務化したとしても男性の育児参加は定着しないと考えているわけです。

まず、男女の収入格差について考えてみましょう。この解決には、女性の地位や賃金を男性と対等にしていく施策が必要です。女性活躍が叫ばれてはいますが、管理職における男女比や、総合職と一般職の収入格差も解消されてはいません。

「女性は出産や子育てがあるから長く働き続けられない」という思い込みはやめて、出産後も女性が働き続けられる環境を、会社でも家庭でも整備していく必要があります。また、育休取得による家計へのダメージもなくすべきです。「男女とも勤務中に育児セミナーに行ける」「給付金を賃金の100%にする」といった、思い切った施策がほしいですね。