睡眠時間2、3時間の極限状態で「もう仕事を辞めようか」

そんな介護の最中にも、仕事は容赦なく進みます。当社は東証一部上場のクライアントをはじめとした責任ある仕事を任されており、仕事に穴をあけるわけにはいきませんでした。

もともと当社では、今でいうテレワークを15年以上まえから先進的に取り入れていました。私だけでなく、スタッフも「PCさえあれば、いつでもどこでも仕事ができる」ということは、介護を続けていくうえで大きな優位点だったと思います。元気であること、体力をキープすること、切れ切れでも仕事ができる体制を整えておくこと、スタッフに権限移譲すること、遠隔でもきちんとマネジメントできること、万一の時のためにクライアントにも事情を話して、了承を得ておくことなど仕事を円滑に進める上でできる限りの工夫をしていました。

それでも出張先では夜中まで電話、出張から帰れば実家で介護……という生活で睡眠時間は極限まで少なくなり平均2、3時間でした。介護に向き合う覚悟を決めた私も、さすがに限界だと感じ始めました。

親はいつかは死ぬもの

それで思い余ってメンターの一人に相談したのです。「クライアントに迷惑をかけてはいけないし、いっそのこと仕事を辞めようかと思っています」と。そうしたら、底抜けに明るく、いつも見守り励ましてくれる彼女に一蹴されたのです。「何言っているの? あのね、親はいつかは死ぬの。親の介護のために仕事を辞めちゃ絶対ダメよ。後悔するから。仕事もしない10年後の自分の姿を想像してみてごらんなさい。孫におこづかいの一つもあげたいでしょう? それに、あなたはすでに社会で必要とされる人、“公人”なの。これまでがんばってきたあなたの仕事は、十分評価に値するのよ」

考えてみれば、仕事を辞めても介護がなくなるわけではない。仕事があるからクライアントが喜んでくれて、だから頑張れるのかもしれない。以前部下だった病気の子どもを持つ女性スタッフが、「仕事をさせてもらえてありがたい。仕事があるから頑張れるのです」と言っていた言葉と、自分の姿が重なるように感じました。仕事は、自分自身の社会においての存在意義にも値するものかもしれません。メンターのアドバイスで、介護と仕事を両立させる決意がいっそう固まったのです。

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