男性の育休取得を阻む壁の正体

ツイッターで発覚した今回のカネカ騒動は、育休明け直後の男性社員に転勤を命じたものの、子どもの保育園事情などを理由に、転勤に応じることができず退職したというもの。育休取得を理由とした社員の不利益な取り扱いは、育児・介護休業法で禁じられており、育休後は原則、同じ仕事に復帰させるよう配慮することが定められている。ツイッター上では「見せしめではないか」「パタニティーハラスメント(嫌がらせ)だ」などと意見が交錯している。

先に触れたが、米国でも日本でも共通しているのは、男性の育休取得を阻む企業の壁の厚さだ。いずれも、主な育児の担い手は女性との社会観念が根強く残っており、男性=育休という構図が浸透していない現況が見て取れる。そこには、キャリア中断に対する不安のほか、復帰後の境遇、昇進への影響を懸念する男性の実像が見え隠れする。

復帰後の働き方にも壁がある

実を言えば、私は15年春から1年間、育児休業に踏み切った。取得にあたり、幸いにも嫌がらせや妨害を受けた記憶はなく、復帰後は何事もなかったかのように、元の職場にそのまま戻された。そして、以前と同レベルで働いているうちに、周囲は私が育休を取っていたことを忘れていった。一方で、育休で得られた経験を糧に、残業時間の短縮や早期帰宅の推奨などを組織に還元したとは言い難い。「一人で動いたところで何も変わらない」と思いつつ、むしろ復帰後の方が壁の厚さを痛感した。

自民党議連が目指すところは、男性社員の育休取得を企業に義務付けるための法制化だ。

現時点では、実現までの道のりは見通せないものの、典型的な男社会である永田町を取材していた身としては、こうした議論が出てきたこと自体に驚きを禁じ得ない。それだけ、男性のキャリア形成への関心が強まっている証しであり、育休促進はそのための手段となりうる。

日米ともに今後問われていくのは、男性個々人の考え方のパラダイム・チェンジである以上に、企業が男性社員の育休にどう向き合い、制度を充実化していくかという姿勢そのものである点は実に興味深い。

小西 一禎(こにし・かずよし)
米国在住・駐夫 コロンビア大大学院客員研究員 共同通信社政治部記者
1972年生まれ。6歳の長女、4歳の長男の父。埼玉県出身。2017年12月、妻の転勤に伴い、家族全員で米国・ニュージャージー州に転居。96年慶應義塾大学商学部卒業後、共同通信社入社。3カ所の地方勤務を経て、05年より東京本社政治部記者。小泉純一郎元首相の番記者を皮切りに、首相官邸や自民党、外務省、国会などを担当。15年、米国政府が招聘する「インターナショナル・ビジター・リーダーシップ・プログラム」(IVLP)に参加。会社の「配偶者海外転勤同行休職制度」を男子として初めて活用し休職、現在主夫。米・コロンビア大学大学院東アジア研究所客員研究員。ブログでは、駐妻をもじって、駐夫(ちゅうおっと)と名乗る。

写真=iStock.com